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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
七色の星、夢追い求めて
【過日の夢】
こんな夢を見た。
傘を差す。そうして見上げたのは裏地である。なんの変哲もない黒だ。鴻上 彰尋は特に感慨も抱かない。
隣を歩む彼女を見る。七夜 あおいもまた傘を差す。おやと首を傾けた。見上げた裏地には宇宙が広がっていた。
星々が瞬いている。太陽が煌々と輝く。あれはブラックホールだろうか。球体の深淵の縁には虹色の輪が巡っていた。
「見て、彰尋くん」
あおいが指を差す。
なるほど、裏地が宇宙なのではなかった。鏡張りなのだった。
彰尋は宇宙に立っていた。奇妙な言いようだが、夢なのだから仕方がない。こつりと床の感触はある。透明なガラスの上に立っているようなものだ。
床は大きな青いガス惑星の向こうへ続いているようだ。
「……行こうか？」
彰尋が決まり切ったことを尋ねると、
「うん、行こう」
あおいは決まり切った答えを返した。
こつ、こつと宇宙を歩く。小さく赤い星の脇を、大きなクジラが泳いでいた。天上にきらめく大七連星を縫うように、ペンギンたちが楽しげに飛んでゆく。あおいが、わあ、と笑んだ。天の川だと思っていたものは、おびただしく群れる、水晶めいて透明なクラゲたちだった。
「きれいだね」
あおいの口からそう漏れると、
「うん。きれいだ」
彰尋の口からも滑り出た。
道なき道を歩む。流れ星が直近を横切っていく。少し驚き声を上げた。すぐに笑い合った。巨きな巨きなホホジロザメが目の前へやってきた。びくりとして佇む。サメは口の端を上げ、優雅におじぎをしながらヒレを道の先へと掲げた。あおいがカーテシーを返すのを見て、彰尋はぷ、と吹き出した。あおいは憤慨し、そしてすぐに頬を緩めた。
タコとイカが睦み合うようすいすいと通りすぎていく。彰尋は貝殻を拾った。小指の先ほどの貝だ。星明かりを照り返し艶めいている。
ふと思い立ち、あおいの髪へ乗せてみた。
「似合うかな？」
「とても。すごく」
当たり前のことを言い合った。
イルカたちへ手を振りながらガス惑星のたもとへたどり着くと、一匹の『ねこ』が立っていた。燕尾服を着ている。キジトラだった。
ねこはふたりを順ぐりに眺めてから、恭しく頭を垂れて言った。
「お待ちしておりましたニャ」
傘をたたんだ。
ねこに連れられて歩いた先に、巨木が立っていた。宇宙の真ん中、見えない床に生えているものだから、まるで浮いているようにも見える。根はまるで虚空を掴んでいるようだ。
巨木を中心に、円形で段状の観客席が設けられていた。座っているのはねこたちである。着飾っている者もあれば、生まれたままの者もあった。
ねこたちは一様に瞳を輝かせ、彰尋とあおいを見た。にわかに戸惑う。まごついていたら、先ほどの燕尾服が、彰尋へ冊子を手渡した。
「台本？」
覗き込んだあおいが言う。燕尾服はうなずいた。
「……演れってことかい？」
燕尾服は嬉しそうに、もう一度うなずいた。
ぱらとめくる。『真夏の夜の夢』であった。
「俺の役はどれ？ ほかの演者は」
燕尾服は首を振る。
「……ひとり芝居ってこと？」
ハーミアもライサンダーも、ディミトリアスもヘレナも、シーシアス公も、オベロンやティターニアも。妖精パックさえひとりで演じろというらしい。無茶振りである。喜劇をたったひとりで成り立たせることのいかに困難であることか。
しかし奮い立つ。祖父が遺した台本には、シェイクスピアもまた少なからず含まれていたので。
「応援してるね。がんばって、彰尋くん！」
ねこらの真ん中に腰を落としたあおいがひらと手を振った。瞳は期待に満ちている。応えねばと勇んだ。
星の向こうからイルカがやってきた。シャチもいる。大勢のねこたちがアシカの背に乗り到着した。ペンギンたちもやってくる。頭上を漂うオニイトマキエイも観客だろうか。ハリセンボンがねこの頭にちくりと乗り、ねこは飛び跳ねた。クマノミたちはねこの毛皮を仮のよるべとした。ガス惑星がひときわに輝いたのが、開演の合図となった。
「うん。まあ、やってみようか」
夜の公園とは違う。大観衆の面前である。だが真っすぐ向こうにあおいがいる。逃げ出す理由は軒並み失せた。
それに、夢だ。やってやれ。彰尋は胸に手を当て、惑星の青い輝きへ腕を掲げ、半ば叫ぶがごとく声を張り上げたのだった。
「さて美しいヒポリタよ、我らが婚儀も間近と迫った！ 待つ身の楽しさもあと幾日、さすれば新月の宵が来よう。それにしてもかけてゆく月日の歩みのいかに遅きことか！ 逸る心を焦らすのはまるで、継母ややもめよろしく朽ち果て老いさらばえ、次代なす若者に財を託すを阻むかのようではないか……」
あおいが見ている。青く微笑んでいた。
こんな夢を見た。
傘を差す。そうして見上げたのは裏地である。なんの変哲もない黒だ。鴻上 彰尋は特に感慨も抱かない。
隣を歩む彼女を見る。七夜 あおいもまた傘を差す。おやと首を傾けた。見上げた裏地には宇宙が広がっていた。
星々が瞬いている。太陽が煌々と輝く。あれはブラックホールだろうか。球体の深淵の縁には虹色の輪が巡っていた。
「見て、彰尋くん」
あおいが指を差す。
なるほど、裏地が宇宙なのではなかった。鏡張りなのだった。
彰尋は宇宙に立っていた。奇妙な言いようだが、夢なのだから仕方がない。こつりと床の感触はある。透明なガラスの上に立っているようなものだ。
床は大きな青いガス惑星の向こうへ続いているようだ。
「……行こうか？」
彰尋が決まり切ったことを尋ねると、
「うん、行こう」
あおいは決まり切った答えを返した。
こつ、こつと宇宙を歩く。小さく赤い星の脇を、大きなクジラが泳いでいた。天上にきらめく大七連星を縫うように、ペンギンたちが楽しげに飛んでゆく。あおいが、わあ、と笑んだ。天の川だと思っていたものは、おびただしく群れる、水晶めいて透明なクラゲたちだった。
「きれいだね」
あおいの口からそう漏れると、
「うん。きれいだ」
彰尋の口からも滑り出た。
道なき道を歩む。流れ星が直近を横切っていく。少し驚き声を上げた。すぐに笑い合った。巨きな巨きなホホジロザメが目の前へやってきた。びくりとして佇む。サメは口の端を上げ、優雅におじぎをしながらヒレを道の先へと掲げた。あおいがカーテシーを返すのを見て、彰尋はぷ、と吹き出した。あおいは憤慨し、そしてすぐに頬を緩めた。
タコとイカが睦み合うようすいすいと通りすぎていく。彰尋は貝殻を拾った。小指の先ほどの貝だ。星明かりを照り返し艶めいている。
ふと思い立ち、あおいの髪へ乗せてみた。
「似合うかな？」
「とても。すごく」
当たり前のことを言い合った。
イルカたちへ手を振りながらガス惑星のたもとへたどり着くと、一匹の『ねこ』が立っていた。燕尾服を着ている。キジトラだった。
ねこはふたりを順ぐりに眺めてから、恭しく頭を垂れて言った。
「お待ちしておりましたニャ」
傘をたたんだ。
ねこに連れられて歩いた先に、巨木が立っていた。宇宙の真ん中、見えない床に生えているものだから、まるで浮いているようにも見える。根はまるで虚空を掴んでいるようだ。
巨木を中心に、円形で段状の観客席が設けられていた。座っているのはねこたちである。着飾っている者もあれば、生まれたままの者もあった。
ねこたちは一様に瞳を輝かせ、彰尋とあおいを見た。にわかに戸惑う。まごついていたら、先ほどの燕尾服が、彰尋へ冊子を手渡した。
「台本？」
覗き込んだあおいが言う。燕尾服はうなずいた。
「……演れってことかい？」
燕尾服は嬉しそうに、もう一度うなずいた。
ぱらとめくる。『真夏の夜の夢』であった。
「俺の役はどれ？ ほかの演者は」
燕尾服は首を振る。
「……ひとり芝居ってこと？」
ハーミアもライサンダーも、ディミトリアスもヘレナも、シーシアス公も、オベロンやティターニアも。妖精パックさえひとりで演じろというらしい。無茶振りである。喜劇をたったひとりで成り立たせることのいかに困難であることか。
しかし奮い立つ。祖父が遺した台本には、シェイクスピアもまた少なからず含まれていたので。
「応援してるね。がんばって、彰尋くん！」
ねこらの真ん中に腰を落としたあおいがひらと手を振った。瞳は期待に満ちている。応えねばと勇んだ。
星の向こうからイルカがやってきた。シャチもいる。大勢のねこたちがアシカの背に乗り到着した。ペンギンたちもやってくる。頭上を漂うオニイトマキエイも観客だろうか。ハリセンボンがねこの頭にちくりと乗り、ねこは飛び跳ねた。クマノミたちはねこの毛皮を仮のよるべとした。ガス惑星がひときわに輝いたのが、開演の合図となった。
「うん。まあ、やってみようか」
夜の公園とは違う。大観衆の面前である。だが真っすぐ向こうにあおいがいる。逃げ出す理由は軒並み失せた。
それに、夢だ。やってやれ。彰尋は胸に手を当て、惑星の青い輝きへ腕を掲げ、半ば叫ぶがごとく声を張り上げたのだった。
「さて美しいヒポリタよ、我らが婚儀も間近と迫った！ 待つ身の楽しさもあと幾日、さすれば新月の宵が来よう。それにしてもかけてゆく月日の歩みのいかに遅きことか！ 逸る心を焦らすのはまるで、継母ややもめよろしく朽ち果て老いさらばえ、次代なす若者に財を託すを阻むかのようではないか……」
あおいが見ている。青く微笑んでいた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年06月10日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年06月17日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年06月17日 11時00分
