サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～｜リアクション

サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～

　休憩時間に入った。各部員は後半の練習に備えて自由に時間を過ごす。
　宇佐見望月は陸上部の部室にいた。顧問の浅井幸太に課題として出された論文の問題に取り組んでいた。
　厳しい表情で書き込んでいく。その手は頻繁に止まり、貧乏揺すりが激しくなる。
　――夏が終わったら入試なんだよな。忘れていたかったけど、そうはいかねーし。
　保護者様のねーちゃんの命令を無視できる立場じゃないのがなー。
　止まっていた手を動かす。続きを書き込み、再び止まる。ペン先で空欄を何度も突いた。
　――こんなところで立ち止まってるわけにはいかねーし。ＯＬじゃなくて、ＯＳ入試のエントリー期間に突入してるんで、やるしかねーんだけど。
　全身が小刻みに揺れる。解答用紙に押し当てていたシャープペンシルの芯が折れた。
「ああああ、希望校が論文重視なんて聞いてねぇえええええ！」
　叫びながら両手で頭を掻き毟る。向かいに座っていた幸太は読んでいたテキストを閉じた。
「宇佐見、これで何度目だ」
「うぇい、わかってますよ、こーちゃんセンセ。三回目っすよね」
「四回目だ。そんなに大学に進学するのが嫌なのか？」
「正直に言えばうれしいっす。大会や記録会の成績で推してもらえて、真剣にがんばろーって思えたっす」
　小刻みに頭を下げる。幸太は鼻先を掻いて笑った。
「宇佐見だからだ。ボランティア活動の話は耳にしている。人を思いやれる精神は大学でも十分に活かすことができるだろう」
「え、言ってなかったのに！？　こーちゃんセンセが知っててくれて、猛烈に感動っす！」
　立ち上がった望月は幸太に抱き付いた。
「ありがとー、ありがとーこーちゃんセンセ！」
「合格したような喜び様だな」
　幸太は背中をぽんぽんと叩いた。望月は笑顔で離れた。
「ダメでもすっきりするっす」
「その時は一般入試になるから気を緩めないようにしろよ」
「へ、一般入試？　ソレって無茶苦茶ベンキョーしなきゃマズイヤツっすよね？」
「三教科だから、そうなるか」
　当たり前という風に答える。耳にした望月は、あー、と嘆くような声で仰け反った。直後に笑顔で立ち直る。
「論文がなくなるだけ、マシっすよ」
「いや、論文はあるぞ」
「ええええ、そんなに論文重視なんて聞いてねぇえええええ！」
「宇佐見、これで五回目だ」
　指摘した幸太は丸めたテキストで、ぽんと望月の頭を叩いた。
　二人だけの賑やかな授業は続いた。叫ぶ望月を幸太は笑って注意した。問題に詰まると優しい言葉で助けた。
　幸太は腕時計に目をやる。
「そろそろ時間だ」
「休憩の終わり？　おっしゃー、気晴らしにハンマーをぶっ飛ばしてくっかー」
「実技も真面目にな」
　幸太の言葉に望月は白い歯を見せて笑った。
「もちろんっすよ♪」
　利き腕をぐるぐると回して答えた。