サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～｜リアクション

サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～

バスケットボール部
　長野県の野沢温泉を合宿の拠点と決めた。三泊四日と期間は短い。薄暗い早朝からトレーニングが始まり、空に星が瞬くまで続いた。
　合宿、三日目を迎えた。軽いトレーニングを済ませた部員達は用意されたバスに乗り込む。羽生碧南は表情を引き締めて窓際の席に座る。茶色の目の奥に静かな闘志を燃やしていた。
　バスに揺られて小一時間、一行は信濃学院高校に到着した。ほとんど私語はなく、速やかに降りた。
　一行は隊列を組むようにして正門を抜けてゆく。横手に見えるグラウンドではサッカー部員が試合形式の練習に励んでいた。併設されたテニス場では白熱したラリーが続いている。
　体育館の丸い屋根が見えてきた。碧南は歩きながら左右の腕を回した。
　軽快なドリブルの音が聞こえる。碧南は急いでバスケットシューズに履き替えた。逸早く開いていた扉の中に飛び込んだ。白いユニフォーム姿の部員達が各々でストレッチを行なっている。
　碧南はコート内の宮崎舞子の動きに注目した。仮想敵を想定したドリブルでフリースローラインを越える。
　細かいフェイントを入れて舞子が跳んだ。上空にボールを差し出すようにしてゴールを決める。伸びやかなレイアップシュートであった。
　碧南は舞子と目が合った。相手は勝ち気な顔に微かな笑みを浮かべる。転がったボールを手にして、こちらに小走りでやってきた。
「今日の練習試合、本番のつもりで頑張りましょうね」
「そのつもりよ。県大会で優勝経験のあるチームを相手にするのだから」
　碧南は舞子の目を見て言い切った。
「余計な心配だったみたいね」
　舞子は微笑んでチームに戻っていった。
　その後、両チームの部員が一箇所に集められた。二人の顧問による練習試合の意義が語られ、両者は笑顔で握手を交わした。

　白と赤のユニフォームに分かれて練習試合が始まった。最初のジャンプボールは白が競り勝ち、舞子にボールが渡った。パスのフェイントで最初の一人を躱し、速攻のドリブルに持ち込んだ。
　碧南は追い掛けたが間に合わない。舞子はレイアップシュートで先制点を入れた。
「……これが本気なのね」
　切れのある動きに碧南の闘志に火が点き、一気に燃え上がる。味方にそれとなく目で合図を送った。
　碧南は舞子の位置から離れたサイドラインに立ち、スローインのボールを受け取った。
　迷いのない速攻を仕掛ける。フェイントよりも速さを活かし、レイアップシュートで点を取り返した。
「面白いわ」
　舞子はにこやかに拍手を送る。
　和やかな雰囲気は一瞬で激闘の始まりとなった。碧南と舞子は躍動した。バスケットシューズの底を削るような音をさせて攻防を繰り返す。
　味方がボールを零せば二人は競って横跳びとなった。サイドラインを割って共に転がる。痛みを訴えることなく速やかにコートに戻り、似たようなポジションで構えた。
　主審を務める敵方の顧問はホイッスルを口に咥えた。
　終了の時間が迫る。点差は二点。白が上回っていた。
「これが最後よ！」
　パスカットに成功した味方がボールを投げる。碧南は走りながらキャッチした。ドリブルでセンターラインを越える。
「入れ！」
　オーバーハンドで前方に投げた。直後にホイッスルが吹かれる。
　ボールは緩やかな曲線でゴールに向かう。リングに当たって弾み、力なく外側に零れ落ちた。

　野沢温泉に戻ってきた一行は晴れやかな顔で温泉を楽しんだ。強豪校に引けを取らない試合が出来たことで自信を深めていた。
　大部屋では碧南がさっぱりした様子でスマートフォンを弄り始める。
　その時、メールが届いた。内容を見て笑みが零れた。
『今、大丈夫？　大野雅代ルートに入る方法を教えて欲しいんだけど』
　送信者名は宮崎舞子と表示されている。
「仕方ないなー。乙女ゲー仲間のために一肌脱ぎますかね」
　共通の趣味が幸いして碧南は新たな友人を得たのだった。

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