サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～｜リアクション

サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～

　椎井莉鳥はＴシャツを脱いでセパレートウェアとなった。バーの高さを一メートル七十センチに合わせた。
　スタートの位置に印を付けて走り出す。跳ぶ直前で足を止めて引き返した。最初の位置から半歩、後ろに下げて試してみる。今度はバーの手前で軽く跳んでみた。
　手応えを感じたのか。スタートの位置は変えなかった。空中の姿勢をイメージした手の動きを熱心に繰り返す。
　程なくして上体を後方に引いた。一気に前へと押し出すようにして大きな一歩で走り出す。リズミカルな足の運びで跳んだ。
　身体は押し上げられ、バーの上で丸く反り返る。
　莉鳥は背中からマットに落ちた。その勢いで後方に回って起き上がった。
　自らバーの高さを上げた。五センチの差が表情に出た。スタートの位置で何度もイメージした動きを試す。
　少し乱れた髪を耳に引っ掛けた。大きく上体を引いて迷いのないスタートを見せる。先程と同じラインをなぞり、力強く跳んだ。
　身体を滑らかに捻って背を反らす。両脚を抜くタイミングが少し遅れた。マットに落ちた直後に起き上がり、バーの行方に目を向ける。
　揺れていたが落ちることはなかった。
　莉鳥は軽く拳を握る。同じ高さを続けて次の段階に入った。
　バーの高さを一メートル七十八センチに合わせた。
「……自己ベストを越えないと」
　一センチ、上げた。その高さを目の当たりにして表情が険しくなる。バーの手前で軽く跳んだ。手の動きと合わせる。
　莉鳥の視線が流れた。近くを通り掛かった浅井幸太に声を掛ける。
「先生、自己記録を更新したいのですが、アドバイスをお願いできますか」
「そうだな。椎井のフォームは基本に忠実で悪くない。強いて言えば気負いから少し固くなっているように感じる時がある。もう少し力を抜いて跳んでみたらいいと思う」
「わかりました。気を付けて跳んでみます」
　軽く頭を下げた。幸太は爽やかな笑みで他の部員を見て回る。
　莉鳥はバーに向き直る。全身の力を抜いた状態で気軽に走り出した。
　タイミングを合わせて跳んで背を反らせる。太腿に触れてバーは呆気なく落ちた。
「あの、椎井先輩。基礎トレーニングが終わりました」
　一年の女子達が集まっていた。期待を込めた目を一身に受ける。
「わかったわ」
　あっさりとバーの位置を下げた。莉鳥は個々の特徴に合わせた跳び方を教える。補足の為に実際に跳んで見せた。
「自分のタイミングで跳んでみて」
　各々が緊張した顔で跳び始めた。バーを落とした者には気付いた点を素早く伝える。
「無駄な力が入って動きが固いわ。助走の勢いを活かして、滑らかに空中姿勢に入れるように意識するのよ」
「わかりました。滑らかな動きを心掛けて跳んでみます」
　笑顔で列の最後尾に加わった。
　全員が三回の跳躍を終えた。持参したタオルで汗を拭う。
　莉鳥はバーの高さを一メートル七十九センチに合わせた。スタートの位置に立ち、思ったことを呟く。
「……力を抜いて、滑らかに空中姿勢に……」
　脱力した状態で軽く跳んだ。合間に息を整えた。
　後方に上体を引いてゆっくりと助走を始める。感覚で歩幅を調整して自然な流れで跳躍した。
　青い空に手を差し出すように上げて肩口を通し、身体を反らして綺麗な円を描く。浮き上がる両脚を目にしながらマットに落ちた。大の字となって横目で見やる。
　青い空を背景にしたバーが揺れながらもとどまった。瞬く間に後輩の拍手と歓声に包まれた。
　莉鳥は起き上がると軽く手を挙げた。口元には微かな笑みが浮かんでいた。