shine a light｜リアクション

shine a light

　いかんいかんと言いながら、玄関脇のフックに鍵束を吊す。
「つい忘れものしちゃうんだよなあ～、みんな留守だと」
　独り言しながら自室に入ると、デスク脇の鞄に手をつっこんでごそごそする。
　あった。
　青い猫型ロボットになった気分でジャーンと取り出す。
　スマートフォン。
　最近じゃ、財布より携帯忘れのほうがダメージが大きい気がする。
　たまたま本日、志波武道はひとりだ。下宿先の家族は旅行中で、彼は鍵を預かって留守番していた。といってもずっと家にいる必要はないので、午前中は軽く泳ぎに出ていたのだった。
　携帯を忘れてきたのに気がついたのは帰路だった。そのとたん、リラックス気分はたちまち消えて、武道は背中のゼンマイでもきつく巻かれたように、せかせかと早足で帰宅したのだった。
　だって不在中に弟から『……暇なら遊びに行かないか』なんてお誘い電話が来ていて受けそびれていたとしたら、後悔してもしきれないじゃないか！（まあ、来ていないとは思うけど）
　携帯はチカチカと点滅しているから着信か通知かお告げかなにかあったに違いない。おみくじを開くときの気分で画面をのぞくと、メールが二件、来ているとわかった。
「あれ？　彰尋くんから？」
　改まってなんだろう、と開封して、武道は三回、その文面を読み直した。
「…………」
　しばらく言葉は出なかった。
　洗面所に行き手を洗ってうがいもして、顔も洗って武道は戻ってくる。
　ついでに冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぎ、これをぐっと飲み干した。冷たくておいしかった。
　そうして、
「そっか、そっかぁ……」
　やっと出てきたのはこの言葉だった。深くて暗い井戸の底から、這い上がってきたばかりのような声だった。
　鴻上彰尋から送られて来たメールは、香川王堂の容態を知らせる内容だったのである。
　武道は眼鏡を外し、眉間を軽く揉んだ。
　とすればもうひとつのメール、呉井陽太から送信されたものも、このしらせに関連したものに違いない。
　眼鏡をかけ直すと、武道はこれを読んだ。
　シンプルな内容だったが、やはり三回読み直した。
　携帯を置いてしばらく考える。
　自分のなかで答えは決まっているはずなのだが、いざメールにするとなると、ためらいがあった。
「よし」
　意を決し、武道は返事を書く。
　一言。『俺も行く』と。