shine a light｜リアクション

shine a light

　あの日、別れ際に香川王堂が口にしたのは、また会おうという言葉だった。
　前向きな意味だと信じたい。約束を果たそうという意思なのだと。
　けれどその夜、鴻上彰尋が見たのは、不吉な印象の残る夢だった。
　とりとめのない物語の大半は目ざめとともに蒸発している。しかしその一部だけは、船舶のスクリューに絡む藻のように彼の頭にこびりついていたのだった。
　夢のなかの登場人物は、主として彰尋の祖父だった。
　祖父は舞台俳優である。ここまでは本当だ。だが夢の中で、祖父が立っていた舞台は彰尋の想像だった。
　近代を描いた芝居に出ていたようで、祖父は古めかしい軍服を着ていた。しかし軍服の勲章はひとつのこらず剥ぎ取られ、腰のサーベルや軍帽、徽章、金のボタンまで消え失せていた。
　それもそのはずだ。彼の役は敗軍の将だったのである。指揮権はすでにない。陣地を失い部下もすべて戦死して、あるものといえばみずからの命ひとつ、そんな状態で彼は故国に帰還したのであった。
　故国では、元将軍を糾弾する世論が高まっていた。
　トレードマークの髭をそり落とし、たくさんいる復員兵にまぎれて、彼は人々の怨嗟の声を聞いた。
　無謀な作戦を立てた彼を非難するもの。
　生き残った彼を、卑怯とののしるもの。追放しろと言い張るもの。
　だがどうやって責任を取ればいいのだ。すでに彼は、敵軍の法廷で身分を剥奪され釈放を言い渡されたというのに。
　どうやって責任を取ればいいのだ。
　彼は暗い目をしていた。結論の出ないまま夢は終わった。
　いつの間にか舞台の上の俳優は、祖父ではなく香川になっていた。
　いや、祖父が香川の役を演じていたのかもしれない。
　あるいはその逆か。

　随分、早く目が覚めた。