shine a light｜リアクション

shine a light

　冷たいシャワーを浴びている。
　もっと冷たくてもいいくらいだ。それこそ氷のように。
　軽く走って火照った肌を、細い滝がいくつも滑り落ちていく。
　赤銅色の髪は、水を吸ってもなお赤い。
　頭の中がぐしゃぐしゃになった気がした。
　なにを考えようとも、獅子目悠月の思考はどこかで行き止まりになってしまう。別のことを考えても同じだ。考えが生まれて行き詰まっての繰り返しだ。なんだか、解けない知恵の輪だらけの部屋に投げ込まれたような気分だった。
　原因はもちろん、今朝届いた鴻上彰尋からのメールだ。
　書かれていた内容だけピックアップすると以下のようになる。

　・香川王堂、つまりドクター香川は来週手術を受ける。
　・彼の弟が、その後実家に戻る予定。
　・王堂の容態は、決して良くない。

　ご丁寧に、『もしもう一度会いたいと思っているのなら、手術前の方がいいかもしれない』とまでしたためられていた。
　癌なんだってな、たしか――
　悠月は、栓をひねってシャワーを止める。
　メールを見て、考えを整理しようとジョギングに出て、戻ってきてシャワーを浴びても、あまり進展はしなかった。
　香川王堂に対し最後に抱いた感情は、やっぱり怒りだった。
　腹が立つ。彼の傲慢さに、自分を創造主に定めたような思い上がりに。
　ひとつひとつ思い返すたび、鋼鉄製のウニを心のなかで転がされているような気持ちになるのだ。それも、解消できない類いの。
　だがその一方で。
　わずかながら憐れみも、感じないではない。
　そんな香川が今、死に瀕しているというのだ。
　タオルで髪を拭きながら思う。
　純粋に心配できるほど、俺はお人好しじゃない。憎らしいほうが勝る。
　けれど決して、それだけではない。
　せせら笑いに行ってやろうか、と意地悪く考えかけるも、できるはずがないだろうとすぐ考え直した。
　ああ……俺はどうしたいんだろうか。
　肌着に袖を通すより先に、テーブルにおいた携帯の振動に気がついた。
　タオルを肩にかけ、ためらわず手に取る。
　メールだった。
「呉井か」
　彰尋からの続報かと思いきや、差出人名は『呉井陽太』と表示されていた。
　諸肌脱のままチェアに腰を下ろして読む。
　案の定といえば、案の定である。
　しかしどこか、ほっとしたのも事実だ。
　――見舞い、か。明日な。
　反射的に『行く』と返した。