【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【花火をつくろう科学実験】２

　高校三年生の夏というのは、きっと人生の中でも特別なものだろう。
　受験や社会へ出ることへ向けての焦り、学生らしい夏休みもこれで最後という寂しさ。
　恋人との、高校生活最後の夏を、もっと大切に過ごしたいという想い。

　受験生兼グラドルとして日々慌ただしい初瀬川理緒は、毎日の忙しさに発狂寸前であった。
　息抜きしなきゃ、死ぬ。そんな気持ちで同い年で恋人の佐和崎紗月とやってきた夜市であったが、二人の視線は微妙に逸らされたままだ。
　それというのも先日、異常な暑さの暴走でがあり、ロストバージン寸前までいってしまったのが事の発端。その際に紗月がちょっとしたイタズラ心を起こして「よかったよ、理緒ちゃん……」なんて言ってしまったせいで、感情がすれ違った。
　実際のところは未遂であるということを紗月が伝えると、理緒は安堵した様子だった。
（私のことを大切に思ってくれている……そのことをあの夜の電話で改めて確認したわけで）
　やはり離れたくない。
　紗月は理緒の横顔を見つめる。
　すると理緒も紗月の方を見て、照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
　交わし合う視線はもう、すれ違ってはいない。
「どこいく？」
　と理緒が訊ねる。
「五十嵐先生の科学実験なんてどう？」
　理系が苦手な理緒が唯一、興味を持っているのが化学だってことは知っている。
　化学実験の怪しげな感じとか、炎色反応の実験のような色の変化が綺麗な実験には心ときめくのだそうだ。
「いいね」
　と理緒は笑う。
「周期律とか覚えるのは好きじゃないけど、化学実験は退屈しないんだ。それに花火を作るのって面白そうだし、綺麗に出来たら楽しそうだし」

　そんなわけで紗月と理緒は、五十嵐先生の指導のもと、一緒に手作り花火を作った。
「そういえば初瀬川さん、去年に比べてずいぶん化学の成績が伸びましたね」
　そんなふうに先生に声を掛けられるとお調子者の理緒は、
「いやー、あたしって本気出せばこんなものですよ」
　なんてドヤ顔で鼻高々。
　それを見て紗月は思わず苦笑する。
（まったく、理緒ちゃんったら。本当はめちゃくちゃ頑張ってたの、知ってるよ）

　丁寧に作業を進め、出来た花火に火をつける。
　理緒が作った花火は、カルシウムの橙色。
　紗月が作った花火は、バリウムの緑色。
「綺麗だね」
「うん。どっちの色も、二人のイメージにぴったりな気がする」
　橙色と緑色の火を瞳に映す。
　ぱちぱち鳴る火花の音。
　きっと心の弾ける音。