【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【花火をつくろう科学実験】１

　五十嵐尚輝先生の夜店は、炎色反応で様々な色の手持ち花火をつくってみよう、というものだ。
　先生はいつも通りの白衣姿。祭りだからと洒落っ気が出たりはしないらしい。
　一方、ずっと準備を手伝ってきた御巫時子は、爽やかな柄の浴衣に身を包んでいた。
　よいしょ、とバケツに汲んできた水を隅に置き、先生の方を振り向く。
「間に合って良かったですね……」
「手伝ってくれた御巫さんやみんなのお陰ですよ」
「今日はお手伝い、しますね。尚輝先生、よろしくお願い致します……」
「こちらこそよろしくお願いします」

　手持ち花火の周辺では、人の流れは緩やかで、混みあいすぎないのが丁度良かった。
　何人かが終えたころ、やってきたのはマイペース風な小学生、曖浜瑠樹だった。

「花火作れるのかねぇ……楽しそうだなぁ！　オレも混ぜてー！」
「はいどうぞ。こちらへ」
　時子が作業台へ案内し、先生が一通りの手順や注意事項を教える。
　瑠樹は目を輝かせてそれを聞き、しっかりと手順を守って作り始めた。
「花火作るの初めてだし、作る所もわくわくするねぇ！」
「ひとくちに火といっても、燃やすものによって、さまざまに色が変わるんです。炎色反応というんですよ。例えばナトリウムは黄色っぽくなりますし、カリウムは紫色、銅は緑青色の火になります」
「へ～！」
　そんな話もおもしろい。
　隣では、時子もお手本として一緒に線香花火を作っている。
「できましたか……？」
「うん！　できたよぉ」
「じゃあ、火をつけてみましょうか」
　バケツの水を傍に、蝋燭の火で着火する。
　ぱあっとシャワーみたいに散る火花は、自分で作ったという感慨も相俟って、とてもキラキラして見える。
「赤……青……黄色……もっと変わって、綺麗だねぇー！」
　暫くすると火花は細り、やがて涙のような一滴の光を落として完全に消えた。
「あっ、終わっちゃった……少し悲しいねぇ」
「そうですね……けれどだからこそ、夏らしい風情を感じますね……どうでした？」
「楽しかったよぉ！　ありがとうなぁー！」
　燃えさしの花火をちゃんとバケツの水につけ、手を振って去る瑠樹に、時子も浴衣の袖を押さえてしとやかに手を振る。
「楽しんでもらえて良かったです……ね、尚樹先生？」
「ええ。そうですね」