あくがるる蛍なりけり｜リアクション

あくがるる蛍なりけり

「綺麗……」

　力強く点滅を繰り返す蛍に、思わず視線を注いでいた佐和崎紗月のすぐ近くで、電話の受信音が鳴り響く。
　びくっ、と身体がこわばった。
　恐る恐る伸ばした手で掴んだスマホの画面を見れば、待ちわびた、想い続けていた名前があった。
　どうしよう、なんて言おう……心から、ごめんなさいと謝って……それから……。
　まだ考えがまとまらないまま、しかし心は正直に体を動かし、気付けば画面のボタンを押していた。

「……もしもし、えっと、紗月……です」
「…………紗月」

　つい改まった言葉が発せられた紗月へ、電話の向こうから小さく、でも確かな初瀬川理緒の声が聞こえる。
　お互いの一瞬の間が出来た、後。

「紗月……あたし、紗月が好き……大好きだよ……！」

　感極まった理緒の言葉が、強く響いた。
　耳から脳へ、そして心臓へ。紗月の頬が紅潮して、あっという間に瞳は涙で溢れる。

「うん、私も……私も大好きだよ、理緒ちゃん……」

　すれ違っていたと思っていた心は、実はずっと重なっていた。
　お互いの、頬を流れた雫が同時にスマホの画面へと落ちる。
　慈しみ合う心が手を取り合うように。
　潤む視界に飛び交う蛍たちが、まるで夜空の星々のようだった。
　温かい気持ちで満たされていく紗月のそばで、窓辺に下げた風鈴の音が鳴った。
　澄んだ音色は二人で一緒に聴いたときと何も変わらない。
　音色に勇気をもらうように、蛍たちに励まされたように、
　『あのね……っ』と言葉を繋げたのは、さてどちらが先であっただろうか　――