【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●プロローグ

　ある夏の夜。
　夏休み中で閑散としているはずの寝子島高校。
　濃いみどり色した葉桜の並木道に、煌々と明かりが灯り始める。
　今宵は寝子高夜市。
　理事長・桜栄あずさの思い付きによる、真夏の夜のちいさなお祭りだ。
　
　集ってくるのは浴衣に身を包んだ寝子高生や、寝子島島民。
　なかには島民に紛れてひとによく似た姿となった、星幽塔の民・ほしびともいる。

「学校なんてなかなか来ないから新鮮。何処へ行こうかな～」
　寝子島在住のご婦人、シオ・レイゼルオークは、案内を片手に悩んでいた。
　上品な仕草で灰色の髪を掻き上げ、ふと視線をあげると、同じように佇むご婦人がいる。
　年のころは、自分よりやや若いだろうか。
　肩につくかつかないかのナチュラルボブな黒髪に、黒ぶちの眼鏡。
　すこし人見知りそうな雰囲気で、おどおどとあたりを見回している。
（みんな若い子か、親子連ればかりね……やっぱり場違いだったかしら）
　このとき、夜市に来たものの一人で行先に悩んでいた主婦、白石妙子と、シオの目が合った。
（あら……あの人私と同じくらいかしら？　連れの人はいないみたいね）
（もしかして似たような状況かな～。私もなんですよー）
　以心伝心とはこのことか。
　お互いに、思わずにっこり。
「おひとりですか？」
　シオが声を掛けると、妙子は小さく頷いた。
「ええ、主人が子供と出かけてしまって……」
「いっしょに見て回りませんか？」
「わ、私でいいんですか？」
「もちろん！　シオと呼んでね」
「は、はい……喜んで。私、白石と申します。よろしくお願いします」
　よい連れができた。
　シオは改めて、案内に目を落とす。

　今回の夜店は、先生方が出店を出すらしい。
「三猫だんご、アイスクリームに花火の科学実験、執事カフェなんてのもあるんだね～」
「かくれんぼ大会や腕相撲バトル、射的屋やクッキー屋さんも」
「水晶玉占いやら恋愛相談もあるんだ～この学校の先生たちって多才だね」
　最後には、ライブまであるらしいと、ふたりの女性はくすくす笑い合う。

「あっ、あそこにいるのが理事長さんでしょうか？」
　妙子が指さした先には、あずさの姿。早速、アイスクリームを召し上がっている。
　シオはなんとなく、こういう企画を考えてくれてありがとう！　と拝んでみた。

「さて、どこから回ろうか？」

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