クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～｜リアクション

クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～

●三夜湖の戦い（１）

　三夜湖へと向かった面々は、黒い硝子を張ったような湖面に、その悪魔の姿を見た。
「――ようこそ、人間の皆様」
　と、美貌の悪魔――ブブ・ベルゼは、口元に笑みを乗せる。
「やっほー。ベルゼさんおひさぁ」
　なんて、何でもないふうにひらと手を振って、一歩進み出たのは桜庭円だ。
「また商品の仕入れ？」
「ご明察ですね。そこまでわかっておいでなら、邪魔立てせずにいただきたいものですが」
「まあまあ。それに、お三夜さまを狙うっていうのはどういう事なのか、気になるんだよね」
　ねえねえ、どういうことぉ？　と答えを促せば、
「簡単なことです。あの神には、商品としての価値がある」
　と、ベルゼは胡乱に微笑んだ。
　ベルゼの言い様に痺れを切らせかける犬杜初の前、彼女を庇うようにして凛々しく立つは柳内みことだ。
「睦から、あなたは魔界に生きる商人だと伺っておりますわ」
「ええ、その通りですよ、お嬢さん」
「私も気になりますの。お三夜さまをやっつけたとして、『誰との取引に使うのか』」
　みことの眼差しと、ベルゼの眼差しがぶつかり合う。
　火花が静かに散る中、
「僕も、是非知りたいね」
　と、サキリ・デイジーカッターも、口元に笑みを浮かべて一歩前へ。
「おや？　貴方は……」
「ああ、久しぶり。あの時以来か……相変わらず悪さをしているようだね」
「悪さとはまた、人聞きの悪い」
「本当のことだろう？　それより、僕にも教えてほしいな。今の商売先は誰なのか」
　サキリの言葉に、ベルゼは軽く肩を竦めてみせる。
「神の力を欲しがる悪魔なんて、星の数ほど居るんですよ」
　だから取引相手は最もいい条件を提示した客だとぺろりと言うベルゼに、
「うーん……その取引で、あなたが『得られる物』は何ですか？」
　と、顎に手を宛がい、少し首を傾けて、呉井陽太は問うた。
　ほう、とベルゼが面白がるような声を漏らす。
「中々、興味深い切り口ですね」
「あなたは商人だから、ここまでするからには、相応の物を手に入れるつもりじゃないかと思うんですよね」
「それは、例えば？」
「例えば……もしかして、『得られる物』でクローネを呼び覚ますとか、」

「そーいう事、考えてます？」
　クローネの復活、という目的を思い浮かべたのは、サキリも同様だ。
　自然、赤の視線が鋭くなる。
　６人分の眼差しを受け止めて――ベルゼは、にまりと笑った。
「ふふ、素晴らしい！　何とも甘美で、魅惑的なアイデアですね」
「煙に巻くつもりか？」
　八神修の言葉に、「とんでもない」とベルゼは返す。
「正直な感想を述べたまでですよ。……まあ、いずれにせよ確実なことは、」
　――商売の邪魔をする輩を放っておくつもりはない、ということでしょうか。
　悪魔の瞳が、昏く、けれど煌々と光った。