それは、とある雨の日のこと。
犬杜 一閃の様子に、
サキリ・デイジーカッターは僅かに目元を険しくした。
「これは……」
何でも屋『いぬもり』には、店の前に貼り出された依頼のチラシを見て足を踏み入れた……はず、だった。
それが今、店の古くひやりとしたコンクリートの床の上には、店主の一閃が倒れ伏している。
そして――昏々と眠り続ける一閃の首筋には、艶やかな黒い薔薇が一輪、咲いていた。
口元に手を宛がうは、サキリ同様、『いぬもり』を訪れていた
柳内 みこと。
そのみことが、凛として気丈に、一閃の従妹である
犬杜 初へと声を投げる。
「一体、何がありましたの?」
みことに問われて、初が、涙でぐずぐずになった声で言った。
「な、なんか、急に店に、変な、黒いのが入ってきて……」
お兄ちゃん、ういを庇って……と紡いだ、その先は声にならない。
新たな訪問者が『いぬもり』の戸を潜ったのは、その時だ。
「しまった……! 一足遅かったみたいだ……」
「あら? あなたは……」
「あ! みこと殿!」
ぺこり、と行儀よく頭を下げた銀髪の少年の名前は、睦(むつ)。
その正体は、寝子島の古い神・お三夜さまの眷属だ。
ふむ、と、サキリが唸る。
「どうやら、険呑な来客じゃないみたいだね。それで、用件は?」
「あ、はい! 実は……」
睦曰く、今、寝子島には、とある悪魔が放った数体の<黒い化け物>が彷徨っているらしい。
その<黒い化け物>は、人の恐怖を食らい、その相手に深い深い眠りをもたらす。
そうして集めた恐怖で、《黒い化け物》は、どんどんと力を増していくのだ――。
既に世界を
テオが切り分けているが、なぜ睦がこうして駆け回っているのかというと。
「悪魔は、強化した<黒い化け物>で、お三夜さまをやっつけてしまうつもりのようなんです」
敵の真の標的は、お三夜さま。
故にお三夜さまは、自身の眷属を攻めに守りに充てているのだと、睦は言った。
「でも、この調子では……もしかして、手が足りていないのでは?」
「……みこと殿のおっしゃる通りです」
「でしたら尚のこと、放ってはおけませんわ」
みことの言葉に、「そうだね」とサキリも頷く。
「僕も同感だよ。それに、」
「そういう趣味の悪い悪魔と、ちょっとした縁があってね」
零したサキリの赤の眼差しに、刃物のような鋭さが、走った。
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
シナリオ『それいけ蚤の市! ~欲しい物は何ですか?~』より、
サキリ・デイジーカッターさんの願い事をシナリオ化させていただきました。
GMの都合により、公開までものすごく時間がかかってしまい、恐縮です。
サキリさん、柳内 みことさん、ガイドへの登場誠にありがとうございました!
もしこのシナリオにご参加いただける場合ですが、
ガイドは一例ですのでご自由にアクションをかけてくださいませ。
以下、シナリオの詳細でございます。
このシナリオの概要
とある雨の日のこと。
悪魔ブブ・ベルゼによって、寝子島に、数体の<黒い化け物>が放たれてしまいました。
不定形の<黒い化け物>は、人の恐怖を食らい、恐怖を食らった相手に深い眠りをもたらします。
集めた恐怖で、<黒い化け物>はどんどんと力を増していく……というシステムです。
既に、世界はテオによって切り分けられていますが、
PC様方は、<黒い化け物>が彷徨っている方の世界に残されてしまいました。
シナリオの主な目的は、
・<黒い化け物>を後述の方法で弱体化させること
・<黒い化け物>を放った張本人であるベルゼ(が、寝子島に残した分身体)を撃退すること
の2つです。
また、PC様達は突如異変に巻き込まれることになりますので、
普段から持ち歩くのに不自然な物の開始時からの所持・使用は採用できない場合がございます。
ですが、例えば何でも屋『いぬもり』からスタートの場合、店にあるものなら、大体持っていって大丈夫です。
なお、今回の黒幕(ベルゼ)はこちらのシナリオ等にも登場しておりますが、
それらをご参照いただかずとも、全く問題ございません。
テオやミラではなく、お三夜さまの眷属の睦(後述)達が駆け回っているのは、
ベルゼの真の標的が、お三夜さまだからだとのこと。
お三夜さまは、眷属達によって守られていますが、
人手(猫手?)が足りていないようで、事件の解決には、皆様の協力が必須です。
このシナリオでできること
以下のABのどちらかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【A】【B】と記入してください。
双方の結果によって、寝子島が救われたり、事態が収まらずに新たな展開を迎えたりします。
(後者の場合は、後日、何らかの形で続きのシナリオが出ることになります)
なお、PC様はわけがわからないまま事件に巻き込まれてもいいですし、
街を駆け回る睦や、他の眷属(の式神的なもの)から話を聞いてもいいですし、
何でも屋『いぬもり』で、ガイド本文の状況に立ち会ってもOKです。
※現在、『いぬもり』の前には、簡単なアルバイトの依頼のチラシが貼ってあります。
ガイド本文の情報を得たい場合の動機付けに、もし良ければ。
【A】VS、ブブ・ベルゼ(分身体)
ベルゼの力で黒い硝子を張ったような状態になった三夜湖で、ベルゼの分身体と戦います。
ベルゼの分身体は、一定以上のダメージを与えると、寝子島から撤退します。
アクションの工夫次第では撤退を阻止することも可能ですが、難易度は高めです。ご了承ください。
分身体の撤退を阻止し撃破した場合、魔界にいる本体の力を大きく削ぐことができます。
なお、分身体はベルゼと意識を共有しているので、会話なども可能です。
ベルゼが三夜湖にいることは、睦や他の眷属(の式神的なもの)が、お三夜さまの力で知っています。
以下、ベルゼの分身体の攻撃手段です。
○愚者の手
硝子状になった湖面から黒い手が幾らも伸び、PC様方を捕らえようとします。
○黒曜の嵐
黒く輝く光の粒子が舞い踊る、ベルゼを中心として巻き起こる嵐です。
触れた者にダメージを与えると同時に、吹き飛ばします。
バリアのような役割も果たします。
○闇のオーラ
PC様方がベルゼへの接近を果たした際に、ベルゼが使用する技です。
拳や足にオーラを纏わせて、ダメージ大の体術を繰り出します。
【B】自身の恐怖と戦い、<黒い化け物>を弱体化させる
寝子島のあちこち(九夜山以外)で、敢えて<黒い化け物>と対峙し、自身の恐怖と戦います。
PC様にとっての<恐怖の世界>へと誘われることになりますので、
PC様にとっての<恐怖の世界>がどんな場所か、必ずご指定くださいませ。
<恐怖の世界>を抜け出すには、その世界に存在する恐怖の化身を打ち倒さなければいけません。
例:恐怖→寝子島が平和でなくなること
<恐怖の世界>→巨大な怪獣が、寝子島を破壊し尽くさんと暴れ回っている世界
恐怖の化身(倒すべき敵)→巨大怪獣
敵は、PC様が恐怖と向き合い、乗り越えようという勇気を抱くことで弱体化されます。
逆に、PC様が恐怖に囚われたままだと、敵はものすごく強いです。
PC様が敗北した場合、<恐怖の世界>から抜け出せず、身体は、ガイド本文の一閃のような状態になります。
また、GAを組んだ場合のみ、GAメンバーのうちの誰かの<恐怖の世界>へと一緒に向かうことができます。
敵にトドメをさせるのは<恐怖の世界>を生み出したPC様だけですが、
励ます、叱咤する、手を握ってあげる……などなど、恐怖と戦うために力を貸すことが可能です。
<恐怖の世界>で敵を倒せば、自動的に切り分けられた方の寝子島へと戻ります。
<黒い化け物>も、これ以上恐怖を蓄えられないほどに弱体化でき、
ベルゼの目論見を潰す目的に、大きく資することができます。
登場NPC
○睦(むつ)
お三夜さまの眷属。正体は、銀色の毛に青い目をした雄の子猫。
和風の装束を着た、銀髪の少年の姿で現れますが、猫の姿にも戻れます。
真面目で素直、一生懸命な性格の男の子です。
接触すると、必要なら、寝子島の一般人がフツウに手に取れるものを一つ、召喚してもらうことができます。
例えば、同じ武器になるものでも、果物ナイフなら召喚可能、拳銃はNGです。
寝子島中(九夜山以外)を、わたわたと駆け回っています。
式神的なものでなく自身が走り回っているのは、まだ式神的なものを使役できないからのよう。
○睦以外のお三夜さまの眷属(の式神的なもの)
猫の姿をしていますが、半分透き通っているのですぐにそれとわかります。
睦と同じく、接触すると、必要なら、寝子島の一般人がフツウに手に取れるものを一つ、召喚してくれます。
九夜山以外の寝子島のあちこちで、ちらほらと姿を見かけられます。
※多数の眷属(睦を含む)と接触しても、得られるアイテムは一つだけです。
○犬杜 初
何でも屋『いぬもり』の(たぶん)看板娘。
お兄ちゃんを酷い目に遭わせた奴をボコボコにしてやる! と三夜湖へ向かうつもり。
猪突猛進気味ですが、指示やアドバイスがあれば、真摯に耳を傾けます。(絶対に従うとは限りません)
ろっこんで飛ばす用に、ヘアピンを多めに持ち歩いています。(操れるのは一度に1個です)
○犬杜 一閃
何でも屋『いぬもり』の主。
<黒い化け物>の襲撃を受け、何でも屋『いぬもり』で昏々と眠っています。
○ブブ・ベルゼ
魔界の商人を名乗る、美しくも胡乱な悪魔。性別は男。
価値のある《商品》を手に入れる為には手段を選びません。
過去、クローネと何らかの関わりがあった模様。
寝子島のフツウを死守できるかは、皆様の手にかかっています!
ご縁がありましたら、何卒よろしくお願いいたします!