クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～｜リアクション

クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～

●雨のあとで

　恵御納夏朝が何でも屋『いぬもり』に戻った時、店内は、まだしんとしていた。
　座敷に上がり、犬杜一閃の苦しげな寝顔を見つめる。
　ふと思い立って、夏朝は、一閃の額にねこシールを貼って、ろっこんで身体を軽くした。
　ここへ戻ってくるための、助けになりはしないだろうか、と。
「一閃さん……初ちゃん、泣いてたよ。元凶倒す為に頑張ってるよ」
　声をかけながら、両手で、彼の大きな手を包み込む。
（君の恐怖は、初ちゃんに何かある事かな。……大切な相手に何かある事かな）
　後者に、僕等を含んでもらえてるなら……と、夏朝は己の手に力を込めた。
「僕は……恵御納夏朝は、ここにいる。皆も頑張ってる」
　だから。
「一閃さん、戻ってきて！　初ちゃん達を、一緒に迎えよう！」
「……ああ、そうか」
　夏朝の言葉に、店の入り口のところから、声が応じた。
　立っているのは、子猫姿の睦を腕に抱いた、ハルキ・イエハナだ。
「初って子は、まだ帰ってないんだね」
　叶うなら今、犬杜初にここに居てほしかったと、ハルキは思う。
（悪夢からの解放が敵の力削ぎに繋がるなら、ここでも戦えるってことだし）
　失ったらしんどいんだ、ということも、ハルキは、心に染み入るようにして知っていた。
「一閃お兄ちゃん！！」
　背後から声が響いたのは、その時だ。
　この子が初だ、と、彼女の顔を見たことのないハルキにもわかった。
「皆！　おかえりなさい！」
　夏朝が、三夜湖から帰還した面々へと言う。
「いえーい！　凱旋ってやつだね！」
「悪魔の分身体は、無事に退治いたしましたわ」
　桜庭円はビシッとブイサインを作って、柳内みことはたおやかに笑み。
　サキリ・デイジーカッターはふっと口の端を上げ、呉井陽太は志波武道の元へと急いだ。
「２人は？」
　と端的に尋ねたのは八神修だ。
　夏朝が、緩く首を横に振る。
「２人は、まだ……」
「……うわぁあ！！」
　返事を、叫び声が遮った。
　がばと身を起こした、武道の声だ。
　あの黒い薔薇は、もう枯れ落ちて無に帰っている。
（……って、あれ？　もしかして、目が覚めた？）
　心臓の音が、辺りの音を全て遮る。
　はぁ……と息を吐いて、武道は項垂れた。
（夢としてはキッツゥ……精神攻撃は、俺にクリティカルなんだから……）
　額に、ピッと痛みが走ったのは、その刹那だ。
　はたと我に返る。
　今しがた武道の額に軽くデコピンを決めたばかりの陽太が、安堵したように苦く笑っていた。
「……久々に心臓に悪かったわー」
　でも、助けてくれてありがと、と陽太は言ったけれど、その顔には疲労の色が乗っている。
「って、もしかして、そっちはそっちでスッゴク大変なことになってた！？」
　うわぁんごめんな、サクっと起きられなくて！　と訴える武道の隣で、
「……う、」
　一閃が、小さく呻いた。
　薄く瞼が開き、灰色の瞳が、自身の手を握る夏朝の顔を捉える。
「恵御納……」
「……一閃さん、おかえりなさい」
　戸口の方では、初が、嗚咽を堪えて口元を押さえていた。
　そんな初へと、ハルキは、
「――貴方の無事が、誰かのかけがえの無い支えでもあるんだ」
　と、静かに伝える。
「知らなくても、忘れないで」
「っ……！」
「ほら、行きなよ」
　ぽん、と軽やかに背中を押してやれば、少女は真っ直ぐにとび出した。
「……終わったみたいね」
　疲れた様子で、けれど律儀に何でも屋へと顔を出した仙藤紫が、静かに言う。
　そんな彼女へと、サキリは眼差しを向けて、
「お疲れさまです、仙藤先輩。ええ、全部終わりましたよ」
　綺麗にハッピーエンドでね、と、柔らかく目を細めてみせた。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：巴めろ
ファンレターはマスターページから！

お世話になっております、ゲームマスターの巴めろです。
まずは、ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました！

色々な要素を詰め込んでの、最後の願い事シナリオのお届けでした。
お楽しみいただけましたら、とてもとても嬉しいです。

重ねてになりますが、ご参加くださった皆様に心からの感謝を。
この度も、本当にありがとうございました！

↑ページトップに戻る