おとぎばなしに君の名を｜リアクション

おとぎばなしに君の名を

　亜麻色の髪には真っ白な兎のお耳。豊満な胸が零れてしまいそうな衣装のお尻には白兎のまん丸尻尾。真珠のガーターベルトで留めるは黒レースのストッキング。
　水着よりも際どい、もしかしたら素裸の方がまだセクシーではなく見えるかもしれないくらいにセクシーな衣装の肩に紗のストールをふわり纏わせ、
巫部紫苑は払暁の緋色した瞳をおっとりと瞬かせる。

　胡蝶蘭の飾りのついたハイヒールでさくりと踏むは早緑色した柔らかな芝生。見上げる視線の先にはおとぎばなしに出て来そうなとんがり屋根の連なる白壁のお城。ぽかぽかと心地よいおひさまが降り注ぐここは、どうやらお城の庭園らしい。
　日当たりの良い庭園のあちらの木陰では王冠を被った銀色の少女と赤いトレスの女性が、樹の大枝にはチェシャ猫と大芋虫が、芝生の上にはおかしな帽子を被った男性と懐中時計を大事に抱えた白兎が、トランプの兵士たちもドードー鳥もグリフォンも、みんな揃ってぽかぽか陽気の下でお昼寝をしている。よくよく注意して見れば、庭園の泉の真ん中の岩の上には浦島太郎を乗せたまんまの海亀がいる、海底から浮かび上がって来た海の魔女がいる、月に帰りそびれた輝夜姫がいる。お城の庭の思い思いの場所であるいは呑気に、あるいは途方に暮れたように、うつらうつらと舟をこいでいる。
「う～ん」
　みんながみんなお昼寝の真っ最中な世界に白兎じみた格好で降り立って、紫苑は首を捻る。なにがなんだかよく分からないけれど、
(美味しいものを食べればきっと幸せですよね)
　食べることが大好きな少女はおっとりマイペースに判断する。
　となれば、することは決まっている。バニーガールな少女はお昼寝大会真っただ中の巨大な庭を一巡り。
　薔薇の花咲く庭に大きな大きなテーブルを見つけ、その傍の塔に調理器具や食器に豊富な食材の揃った厨房を見つける。
　テーブルには真っ白なクロスを掛けて、花瓶には摘みたての薔薇を活けよう。厨房塔の巨大な食器棚から持って来た銀のカトラリーと蔓薔薇の描かれたカップやお皿を並べよう。
　飲み物はローズヒップティーにミントティー、ハートの女王印の紅茶とチョコレートドリンク。
　厨房塔に揃えられた食材を使って作るは、ラム酒で香をつけたドライフルーツたっぷりのパウンドケーキにごろごろチョコレート入りクッキー、紅茶風味のふわふわシフォンケーキには生クリームをたっぷり添えて。香草を詰めた鳥や魚は皮をパリッと焼き上げよう。ほくほくのジャガイモとベーコンにはあつあつのチーズをこれでもかとかけよう。
　心づくしの料理が一品出来る度、紫苑は味見と称して味見には見えない量を口に運んでもぐもぐもぐ。
　漂う匂いに誘われて、
「あん？　なんだここ？」
　やってきたのは結緑一色。黒い髪にいつのまにか被っていた真っ赤な頭巾を摘まみ、同じ色のマントの裾も摘まみ、ついでにはこちらは母親の趣味なフリルつきの黒いミニスカートの裾もぺらりと捲り、一色は黒縁眼鏡越しの黒い瞳を胡乱げに細める。白い額に手ひさしを作り、ぴかぴかのおひさまに照らしだされるお城と庭園と、その庭園に突如として現れたお茶会の席を眺める。
「ようこそお越しくださいました」
　お茶会の席を用意したのは、どうやらバニーガールじみたセクシーな女のひとらしい。ひとり席について豪勢な食事をとても美味しそうにもぐもぐつまみ食いしながら迎えてくれるバニーガールに白兎の耳とおっきなおっぱいを弾ませ朗らかに手招きされ、一色はほんの少し頬を赤らめた。
「さあ、召し上がれ」
　歌うような調子でお茶会に誘われ、ちょっと迷う。
「いや、オレさまちゃんな、母ちゃんに言われて森の向こうのばあちゃんの家にチョー急いで行かなきゃなんねえんだ」
　けれど、でも。真っ白なテーブルクロスの上にはいかにも美味しそうなご馳走がズラリ。
「狼の言ってた通り、チョーいい感じの道草スポットだな」
「お急ぎですか？」
　甘くて冷たいチョコレートドリンクとチョコクッキーを銀盆に乗せ、バニーガールが傍に立つ。どうぞとばかりに差し出され、一色は思わずどうもと銀のグラスを受け取った。
「チョーお急ぎ。遅れると母ちゃんにチョー怒られるんだ」
「大変かもしれませんが頑張ってくださいね」
　バニーガールはおっとりと微笑んだ。
「気が向いたら、また私のお茶会にいらしてください」
「ありがとな」
　バニーガールからのおいしい差し入れを貰って元気を充填、ついでにおばあちゃんのおみやげにパウンドケーキももらい、一色はスカートの裾をひらめかせて駆けだす。目指すは森の向こうのおばあちゃんち。

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