生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

　後木真央は少しだけ表情を硬くして地獄部屋に入室した。だが、参加者を見るやいつもの満面の笑顔で声をかける。部屋はすでにかなり暑い。
「みんながんばろーなのだ！」
霧生深雪とほぼ並んだ状態で座る八神修と、その近くに座る桜庭円に声をかけた。
「後木も来たのか」
「真央ちゃん、こんにちは。がんばろうね！」
真央はその場にかがみこんで尋ねた。
「修ちゃんや円ちゃんは、賞品が何か知ってるのだ？」
「ううん？　知らないよ。自分への挑戦だし、いただけるものがあれば喜んで受け取るよ。真央ちゃんは？」
「真央ちゃんは優勝できたら賞品もらうんじゃなくて、理事長にお願いしたいことがあるのだ」
「何だろう？」
「真央ちゃんは知ってる人みんなが笑顔になれる、自分もみんなもウィンウィンになれる関係や場所を作りたいのだ。だめもとなのだ、小中一貫校を作ってほしいって、お願いしたいのだ！」
真央の口から出たのは思わぬ言葉だった。この寝子島に、特待生制度と寮、つまり勉強に励むことのできる環境と、安定した生活環境、この二つを備えた小中一貫校の設立を頼んでみたいと言うのだった。修はなるほど、とうなずく。
「島の規模を考えるとそれほど大きな学校にはできないとは思うが、考え方自体はいいと思う。俺か後木が優勝できたら……いや、これは結果と関係なく話してみてもいいかもしれないぞ」
「さすがは寝子高の頭脳、修ちゃん！　話してみてよかったのだ」
真央の顔がぱっと明るくなる。
「でも！　がまん大会中はライバルなのだ！　体育科をなめんなし！」
「がんばろうね、ぼくも負けないよ！」
円の声に答えるように、真央はどてらをばさぁっと羽織り、手を振ると離れた場所に自分の居場所を決めて座った。

「優勝できたら、か。すげぇ自信だな」
修の横から霧生深雪がからかうように言う。私服姿にどてら、襟の下からは包帯が見えた。先の荒ぶる妖怪騒動で、深雪は打撲と鎖骨骨折という決して小さくはない負傷を受けていた。もれいびの身には大したけがではないが、まだそれほど日が経っておらず、回復にはもう少し時間がかかる。
「それよりミユ。今日は地味だな」
煽り返す修。熱せられて危険だからとアクセサリー類はすべて外してきた深雪を指してからかった。
「そんなこと言ってられるのも今だけだぞ」
深雪は平然と答える。二人はいつになく不敵な表情を作って見つめ合い、にやりと笑った。

　そうこうしているうちに、地獄部屋にはすべての参加者が揃った。幸いにして、事前の健康チェックも全員がクリアし、万全の状態である。暑苦しさ満点の部屋に、さらに熱気を加える叫びがとどろいた。マイクを手にしているのは『救護係』の腕章に海水パンツ姿の宇佐見望月である。本来、募集するメンバーは参加者と観戦者だけであったのだが、望月は救護班の一員として加わりたいと桜栄あずさに申し出たのだ。
「ん？　いいわよ。ただし」
あずさはマイクを一本望月に手渡して、にんまりと笑い、こう言った。
「盛り上げてね」

　救護係兼、地獄部屋マイク管理者兼、がまん大会司会者となった望月は声を張り上げる。
「さぁ！　がまん大会参加者のみんな！　優勝したいかぁ～！」
「おおー！」
正座する面々にマイクを向けると、威勢のよい掛け声が返って来る。望月は一人ひとりの参加者の名を挙げ、簡単な紹介を行ったあとで司会を続ける。
「豪華賞品を、もらいたいかぁ！」
「うおおー！」
「いやー、みんな気合い十分だね！　あ、申し遅れました、俺様現場リポーター兼救護係の宇佐見望月でっす！　極楽部屋のみなさ～ん？　聞こえますか～？」
マイクを通じて、ぱらぱらと高い音の拍手が聞こえてくる。女性がほとんどを占める極楽部屋は、暑苦しさや不快感のかけらもなく、目に華やかだ。
「えーここからはみなさん、すでに健康上の問題なしと判断されて参加してはいますが！　がまんと無理は違うことを忘れないでくれ！　こちらが危険と判断した方には退場を勧めるので、指示には従ってほしい。ではしばしの間……この灼熱地獄に耐え抜いてもらおうかぁ！」
再び気合いの雄たけび。かくして戦いの火蓋は切って落とされたのである。

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