生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

「詠坂さん、旅鴉さんもゆっくりとくつろいでね。灼熱の空間で戦い抜く人たちを目で癒すエンジェルになってちょうだい」
　同じく『極楽部屋』に入室した詠坂紫蓮と旅鴉月詠にそう声をかけ、意味ありげに桜栄あずさは微笑んだ。
「今日はよろしくお願いします。ふー、涼しい。ここはまさに天国ねー」
紫蓮は心地よさそうにソファにかけている。穏やかな台詞とは裏腹に、地獄部屋の面々がどてらを身に着け、つぎつぎと座布団の上に正座していく様子を好奇心に満ちた目で見つめていた。月詠はこくりとあずさに会釈めいたうなずきを返し、スケッチブックを抱えなおした。本日の題材は、限界に挑み、忍耐の汗を流す若者たち、といったところなのだろう。ちょっとしたパーティ会場かとも思えるほどの極楽部屋、着飾っている面々もいるが、月詠自身はシンプルで涼しげなショートパンツ姿で、生足がちょっとまぶしいぐらいだ。

「そういえば旅鴉さん、地獄部屋のあたりで何をしていたの？」
　橘舞は気になっていたことを尋ねてみた。月詠は地獄部屋入場者が健康チェックを行う部屋のあたりで、救護班と一緒になにやらやっていたようなのだ。
「ああ。体重測定を担当していた」
「たっ……!?」
さらりと答える月詠に、舞は驚く。
「無理をさせないためだ。サウナですらきちんと入り方を守らなければ危ないと言うのに。特に女子はダイエット感覚で参加している者もいるかもしれない」
「な、なるほど……」
（旅鴉さんらしい心遣い、といったところかしら）
舞が感心している中、月詠は続けた。口の端が少しだけ持ち上がり、笑みを作る。
「心配せずとも、秘密は厳守だ。測定結果は本人以外には教えないよ」

「おおー！　いいね、涼しいねー……」
　にこにこと機嫌よく入室して来た、濃茶のショートヘアの少女は一年生の三ヶ島葵だ。きょろきょろと興味深げに部屋を見回すたび、サイドの少し長い髪の房が合わせて踊る。用意された席の中で、いちばん地獄部屋がよく見えそうな前の席に陣取り、隣に座るあずさに声をかけた。
「理事長も案外ひどいことをなさいますねー。ここまでやってしまうなんて」
葵の言葉に、あずさはちょっとだけ悪い顔を作って見せた。
「あらいやあね、人聞きの悪い。救護班だって控えているし、参加者の体調管理には万全の配慮をしているわ。それにがまん大会なんて大昔からある日本の風物詩よ。誰も傷つかずに思いっきり笑える。何の問題もないじゃない」
そう言うあずさの言葉に、葵は大いに共感するのだった。
「なるほど、なるほどー。理事長とは気が合いそうな気がしますよー」
「ありがとう。ふふ……このイベントはみんなが得をするのよ！　彼らにはがんばったという結果が」
「そして観戦する私たちには最高の楽しみが、ですねー？」
二人は顔を見合わせて、にんまりと笑った。
「男子はあんまりこっちに来なかったわねぇ……意地張らなくていいのに、ね？」
　あずさは唯一の極楽部屋への男性入場者、高梨煉に視線を注ぎながら言った。
「おもしろいことをやるって聞いてきたところが、がまん大会だったとはね」
「きっと楽しんでもらえると思うわ。ゆっくりしてってね」
煉は当然だと言うようにうなずく。
「あずさ理事長もすごいこと考えるよな。しかも、自分の屋敷でこんな部屋を作るなんてすごすぎだろ」
ほめてもこれ以上何も出ないわよ、とあずさは笑う。煉は席を選んでソファにどっかりと腰掛けた。給仕の者が運んできたジュースとデザートを受け取って、悠々と地獄部屋の様子を眺める。がまん大会の話を聞いたときから、興味はあったが、大会自体に参加するつもりはさらさらなかった。だが、観戦者として楽しめるとあれば話は別だ。
（今日はのんびりこの場所で応援させてもらうとしようかな）
もちろん普通に観戦者を励ますつもりなどない。どんな風に地獄部屋の連中を揺さぶってみようか。煉はこの部屋にいるものだけが許された悪巧みを、自分なりのやり方で練り始めるのだった。

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