生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！｜リアクション

生き残るのは誰だ！　アンチ納涼がまん大会！

　無心にうどんをほおばる者、一口すすって熱さにうぇぇ、という顔をする者。それぞれの様子を、ジュースを口にしながらじっと眺めていた詠坂紫蓮は、すっと手を挙げ、桜栄あずさ理事長に言った。
「理事長先生！　あの、こっちにも鍋焼きうどん、いただいてもいいですか？」
紫蓮、涼しい顔で地獄部屋を見守っているうちに、おなかがすいてきたようである。
「え？　そうね、おなかがすいた子もいるでしょう。イベント用の間に合わせなんかじゃなくて、ちゃんと作らせてるわよ。ほしい人は言ってちょうだい」
さすがにデザートとジュースだけでは物足りなかったのか、何人かの手が挙がる。すぐに人数分の鍋焼きうどんが用意され、極楽部屋の面々は涼しい部屋で鍋焼きうどんを存分に味わった。紫蓮は地獄部屋からの恨みがましい視線をおかずに、食欲と、自覚のない嗜虐心を満たす。
「涼しい部屋で、暖かいうどんをふーふーしながら食べる……これはすごい贅沢ね。たまらないわ」
紫蓮たちをうらやましそうに見る地獄部屋の戦士たち。耐え切れなくなったのか、視線が虚ろで、体がふらふらしている者も出てくる。無理しないでこっちに来れば歓迎するのに、と紫蓮は思った。暖かなうどんとコク深いスープで、体も心も満たされる。
「ん……さすがに熱々のおうどんでちょっと汗かいたかも」
しかし心配はいらない。部屋は快適な温度が保たれているし、紫蓮たちにはクールなデザートが用意されているのだ。ジュースも新しいグラスのものに、いつの間にか取り替えられている。宝石のように輝くドリンクを飲み、すっきりとした味わいのデザートを口に運ぶと、熱を持った体が内側から冷えていく。
「はあ……天国かも……」
気づけば、あずさが紫蓮の口元にマイクをあてがっている。彼女の幸福感を詰め込んだため息は、地獄部屋にそのまま届き、参加者たちの心を大いに揺さぶるのだった。これは疲れた体に、悪い意味で効く。
「は……も、もうダメぇ……っ……」
　少年でありながら、いや少年であるからこそのこの艶かしさなのか。ついに千鳥雅人は汗で濡れた髪を顔にまとわりつかせ、甘美な響きを声ににじませて、ばたりと地獄部屋の床に倒れ付した。
「おーっと！　千鳥選手ダウン、ギブアップだーっ！」
アナウンスをしながらも救護班、宇佐見望月はきびきびと雅人のそばに近づき、ぐったりとした体を担ぎ上げる。
「あらあら、大変なことになってしまったわ。参加者のみんな、ちゃんと水分と食事を取ってね」
心からの言葉として放たれる、紫蓮のやさしいドSなセリフは、これまたあずさの『計らい』によって地獄部屋に伝えられた。これに佐藤英二の頭もぐらぐらとし始める。しばらくすると、声もなくころりと倒れた。
「ご飯を食べて緊張の糸が切れちゃったのかしら？　食休みも兼ねて、しばらくゆっくり観戦してようかな」
紫蓮はゆったりとソファに深く腰掛け、背を長い背もたれに預ける。たった今、自分の言葉で二人の参加者がノックアウトされたということには気づいていないようだった。眼前では、食後待ったなしのエクササイズタイムが始まろうとしている。