あくがるる蛍なりけり｜リアクション

あくがるる蛍なりけり

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「と、いうわけで夕涼みなのです！」

　説明しよう、
　現在すっかり陽が落ちている中、『夕』涼みと断言する、椿美咲紀嬢のここまでの脳内連想ゲームを。
　夏休み。それは一部の、原稿という物体に携わる者にとって、楽園と地獄が同時開催される時期である。
　学校がある時と違い、いくらでも創作活動に打ち込める楽園。
　練っても練ってもドツボに入るとネタが出て来なく一日が終わる地獄、もしくはネタが山になり過ぎて、構成が全く形にならない地獄などなど。
　この楽園と地獄を上手く行きつ戻りつコントロール出来ないと、白紙の原稿用紙がこんもりしたまま夏休みというものは終わるわけだが。
　こと美咲紀嬢に関しては、そこはもはやプロの域である。
　――　だってずぅっと書いていたらば、アタマも体も疲れちゃいます。隙を見て休み休み書くワケです。
　その『隙を見て』というのが、お人によっては如何に難しいか理解できるかもしれない（筆者はした）。
　それを呼吸するようにとても自然にやってのけ、今日という日も充実して過ごしていた美咲紀嬢。
　曰く、湧き出ずるアイディアたちを練ってこねるのには、昼間よりも夜の方が滾る、とのこと。
　同じ姿勢で固くなっていた体を伸ばしてから、愛しのマイガーデンへと繰り出した。
　丹精込めて育てられた花や野菜たちが、その時節に合わせて咲き誇る庭。
　太陽の陽射しが消えると、花を閉じ眠り出すコもいるその場所は、昼の輝かんばかりの瑞々しい香りから一転、意識すると微かに甘い香りを漂わせる大人な雰囲気を纏い出す。

「この香りをトリガーに、甘く甘く、時に妖艶な、お話をですね、練ってみるのもいいなぁって思うのです」

　『夕涼み』と言ってのけた美咲紀嬢、つまりは単にノリと勢いで出た単語だったわけである。
　この時間だからこそ練れる物語がある、そう確信をもっているゆえの。
　夕涼み改め夜涼み。星ヶ丘寮の控えめながら情緒ある外灯に浮かぶ夏花。
　美咲紀の黒水晶の瞳にそれらを映すと、脳内に浮かぶは某ソシャゲの推しキャラたち。
　――　風に揺れるコスモスは愛嬌のあるあの人でしょうか。
　　　　甘くかぐわしく凛と存在感ある白い百合は、アダルト組な彼らですよね。
　　　　その足元に広がるピンクのペチュニアと、傍らにそっと寄り添うガーベラ……いいですね、この雰囲気のピンクって怪しさ増し増しです。
　妄想、絶好調のようである。
　連日の暑さにまいっている人間も多くなってきているけれど、このお庭の花達はいつも元気な姿を見せてくれる。それが何より嬉しくて。
　毎日がとても幸せ～、なんてほっこり気持ちが満たされれば、この幸せな気分を推しキャラたちでイイ感じな日常的ミニストーリーに纏めたくなるというもの。

「推しキャラが幸せに微笑む姿、これほど萌える画は無いと思うのですよ」

　夏花さんたちへ熱く語ってみせる美咲紀嬢。
　とはいえ、推しキャラたち個々によって、幸せシチュエーションというのはそれぞれ違うもの。
　一人一人の、幸せな場面とはきっとあーでこーで、ともわもわもわーんな大妄想に頬を緩ませる。
　ああ、平和な日常ってホント尊いものなのです……。
　キャラたちの締めもきっとこうです、とすでに頭の中で物語の起承転結が出来かけた頃、遠い世界に旅立っていた美咲紀の目が現実の不思議な光に気付いた。
　蛍なのかな？　と一旦妄想を打ち切って、いつの間にやら自身と庭の周りを揺蕩っている光を観察してみる。

「アレ、何か違うです？」

　淡く点滅する様子は、確かに蛍のそれと似ている。
　けれど、田舎で見た蛍とはどこか、なにか、違和感があった。

「でも風流なので無問題です。昆虫は苦手ですが蛍は景色の一部として見れるので、ノーカウントなのです。
　ほわほわ光る姿が可愛いですね～」

　へにゃんと微笑んだ美咲紀へ、応えるようにしてランダムに光をくゆらして魅せてくれるそれら。
　推しキャラたちの周りを飛んでいたら、さぞや雅でしょう。
　立ち絵を想像してみては、またうっとりとする。

「今日もとっても良い日なのです」

　その笑顔にか妄想にか呼応したように、蛍光をぴかぴかと美咲紀の頭上で光らせる蛍（仮）たち。
　より幸せ感が倍増した気がすれば、花と光とついでに脳内の推しキャラたちとを堪能する一時を過ごす美咲紀であった。

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