犬だっているんです！｜リアクション

犬だっているんです！

「ふっ……まだまだウサギさんの魅力は語りつくせない。なぜそんな顔をしているのかはわからないが……ちなみに、俺の推しメンならぬ推しウサちゃんはアンゴラウサギちゃんだ」
「あー、すまないが、他にも挙手している者がいるので、ちょっと代わってもらえないか」
さすがの御剣刀も、このままでは時間が危険だと判断したのか、行梨謡を諌める。
「それじゃ次は……邪衣」
指名された邪衣士が立ち上がる。ひょっとしたら彼の発言が会議をこの混沌から引き上げてくれるかもしれない。そう期待するものは多かった。
「邪衣士だ。犬猫は確かにかわいい。このように些細なきっかけから議論に発展するのも理解はできる。俺も動物はそれなりに好きだが、犬、猫とペットとして身近な動物だけ取り上げるのはどうだろうか」
理路整然とした語り出しに、安心して耳を傾けていた刀と雪乃先生の顔が、『あれっ？』という疑問系に変わっていく。
「ほら、他にもいっぱいいるだろ？　アザラシとか、カピバラ、アルパカ、アルマジロ、バク、うり坊もいるな。ああ、うり坊ってのはイノシシの幼少期を差す俗称だが」
「ちょっと待った、邪衣」
「さらに変わったところではウーパールーパーやハシビロコウなど……」
たまらず御剣刀が挙手する。
「進行役の俺が発言するのは本来ならルール違反だとは思うが。あまりにも会議の趣旨から逸脱しているんじゃないか？」
そう指摘されても思い当たる節など士にはない。何を言っているんだと怪訝な顔だ。
「ええと、あの、ちょっとだけヘンテコな動物が多すぎる気がしない？」
雪乃先生まで突っ込みに回り始めた。これはなかなかにレアケースである。
「そこがいいんじゃないか！　ちょっと変な方が愛嬌があって、愛でがいがあるだろ」
やっと行梨謡のウサギ推しマシンガントークが止まったと思えば、次は士のヘンテコ動物推しが始まった。席に着いた生徒たちは、困惑の表情を浮かべ、黒板の犬派、猫派の項目の横は空白のままである。
（思いのたけを存分に語ってもらおうとは思ったが……これは困ったな）
進行役の刀もこれには参ってしまった。士はマイペースにヘンテコ系動物の魅力について語っている。
「あの少し残念な感じが、またいい味を出しているとは思わないか？　サンマさんを思い出してみてくれ。ちょっと変だけどみんなの人気者だろ？　変だからって嫌ってたら、その動物がかわいそうだろ！」
マシンガンが去って、また新たなマシンガンが追加されたようなものだ。刀は頭を抱えた。

「犬と猫の会議なんだから集中しようよ！　でもどっちかに決めるなんていけないと思う」
助け舟だ！　再度手を挙げる三希環の言葉に、誰もが期待した。
「猫はクールだけどたまに甘えてくるところがかわいいし、犬は人懐っこくて、一緒にかけっこしたり遊んだりできたりするよね。」
いいぞ、この流れなら犬猫中心の話に持っていける。刀と雪乃先生は心の中で強くうん、うんとうなずく。

「あっでも、犬や猫に限らず、ウサギもモフモフしててかわいいし」
やってくれた！　行梨謡がガッツポーズで立ち上がる。同じウサギ推しの維都月茉菜もぱちぱちと手を叩き始めた。
「カメのつぶらな瞳も捨てがたい……！」
どんどん話はそれていく。だが環のスピーチはこれで邪衣士の心をも動かしたと言っていい。司会陣だけは驚きに凍りついた表情をしている。
「あと他にもね、リスの頬袋に食べ物をいっぱい詰め込んだ姿とか、ペンギンのぺちぺちって効果音のつきそうなあの歩き方とか……」
環は、はたと気がついた。
「あれ？　なんでみんなそんな疲れた顔してるの？」

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