襲来！　フード怪人！！｜リアクション

襲来！　フード怪人！！

　　　４

「……なんか、エライことになってんなあ～」
　ゲームセンターから出てきた流は、あちこちを徘徊する怪人モドキたちを見て呆気に取られた。
「……ゾンビみたい」
　今の今までやっていたゲームを思い浮かべて、流は呟く。
　ゲームならば銃で撃ってオシマイ、だが、現実ではそうもいかない。
「……食べれば戻る、ってことだな」
　サンマさんの話を思い出した流は、コンビニ――なぜか幟が何本かなかった――に入った。
「いらっしゃいませ、こんにちは！」
　コンビニ店員は、外の騒ぎなぞどこ吹く風といった様子で、通常営業中である。
　流は、外の怪人モドキの姿を思い出しながら、野菜スティックやサラダセットをカゴに放り込む。
　そして外に戻ると、きゅうりの怪人モドキの前に立ち、おもむろにきゅうりスティックを頬張った。
　――しゃくしゃくしゃくしゃくしゃく。
　――ごくん。
　そして、きゅうり怪人モドキを見つめる。
　どこに口があるのか、目があるのか。
　きゅうりの怪人モドキは、流の差し出したきゅうりスティックに手を伸ばし、掴んだ。
　――しゃくしゃくしゃくしゃくしゃく。
　きゅうりの真ん中あたりが小さく開き、きゅうりスティックが吸い込まれていく。
　――よし！
と、流はにんまりとした。
　空腹時に食べたものを美味いと思うことで、周囲の生き物もそれを食べたくなる――これが流のろっこん【メシテロジツ】だ。
　きゅうりの怪人モドキはしゅうしゅうと湯気を立て、ぽん！　という音と共に女の子の姿になった。流を見つめる瞳は、驚愕に見開かれている。
「あ～、大丈夫か？」
「……うわわぁ～ん！！！　ママ～！！」
　知らない人間に声をかけられたのが怖かったのだろう、女の子は泣きながら走り去った。助けたのに理不尽だ、と思いつつも、流は大根、にんじん、キャベツと同じことを繰り返した。
　残るはピーマンとシイタケだ。
「……こいつには苦労した」
　ピーマンやシイタケの入ったサラダは少ない。そこで流が選んだのが、野菜炒めだ。もちろん、レンジでチンしてもらった。
　箸を取り出し、流はピーマン怪人モドキとシイタケ怪人モドキの前で食べ始めた。豚肉は後回しだ。
　――むしゃ、むしゃ、むしゃ。
　そして、怪人モドキの前に器を差し出す。怪人モドキたちは震える手を伸ばし、それぞれピーマンとシイタケを摘み、口に持って行った。
　――むしゃむしゃむしゃ。
　湯気を立て、二人の怪人モドキは元の姿に戻った。――東門巧と十歳ぐらいの男の子だ。
「あ、あれっ？」
　巧はきょとんとしている。
「ここ――シーサイドタウン？　あれ？　え？　もう夕方？　僕、来たばっかりなのに！？　何で！？」
「覚えてないわけ？」
「何が？」
　どうやら怪人モドキになっている間のことは、記憶に残らないらしい。それでは、皆、逃げ出すのも当然だ。
　男の子の方は、きょろきょろ周囲を見回している。
「ハル！」
と同じ年頃の男の子が二人、駆け寄ってきた。そのうちの一人は、ついさっきキャベツから戻った子だ。どうやら、友達だったらしい。
　周辺に野菜怪人モドキはもはや見当たらない。残るは魚と肉の怪人モドキだが、これ以上は食べられそうになかった。野菜だけでお腹いっぱいだ。
　流は野菜炒めに蓋をして、袋に入れた。残りは持ち帰って食べることにしよう。
　見れば、お野菜怪人は満面の笑みを浮かべ――どこが目でどこが口か分からないが――、光に包まれて姿を消した。満足したのだろう。
「……後は他の奴らに任せるか。――うっぷ」
　やるだけのことはやった。流は、何やら奮闘中らしいサンマさんの背に親指を立て、帰路についた。
　巧はずっと、首を傾げていた。