襲来！　フード怪人！！｜リアクション

襲来！　フード怪人！！

　　　５

「好き嫌いはするなぁーーー！！」
「してねえよ！！」
　ぶん投げられた魚の骨をリュックで叩き落とし、雅樹は怒鳴った。
　これで何発目かは分からない。幸いなのは、好き嫌いがある者以外に、変身させる光線を使えないらしいこと――さすがにあれは跳ね返せない――と、サンマさんが常に上を向いているために、狙い通りに骨を投げられないことだった。
　とはいえ、かれこれ五分以上はこのやり取りを続けている。日は落ちてきたが、まだまだ暑い。その上、受験生ゆえの運動不足気味も重なって、少々、動くのがきつくなってきた。
　だが、莉鳥の手前、決して泣き言は言えない。ましてや、雅樹から言い出したことなのだ。
　自分が囮になる、と。
「悪いごはいねがぁーーー！！」
　サンマさんが再び骨を構えた。――と、その瞬間である。
　力いっぱい地面を蹴った莉鳥が、サンマさんの懐――どこが懐かは不明だ――に飛び込んだ。そして目を閉じて、両手を突き出した。
　指先から、目も眩まんばかりの光が放たれる。
「ぎょーーーーー！！！！？？？？」
　サンマさんは奇妙な叫び声を上げて倒れた。彼の身体からは、黒い煙がぶすぶすと立ち昇り、おまけに美味しそうな匂いがする。
「焼き魚になったな……」
「そうね……」
「――って、おい！？」
　雅樹は顔色を変えて、座り込む莉鳥に駆け寄った。
　莉鳥は裸足だった。足の裏は小石が食い込み、血が滲んでいる。
「スニーカーにするべきだったわね……」
　放り出されたトートバッグからは、先程まで莉鳥が履いていたビーチサンダルが覗いている。
「……馬鹿野郎っ」
　雅樹は自分のリュックを漁り、ハンカチを見つけると麦茶で濡らして莉鳥の足を拭った。
「っ！！」
　痛みに莉鳥が顔をしかめる。
「水じゃないけど、麦茶なら大丈夫だろ。後で病院まで連れてってやるから」
「……大丈夫。歩けるわ」
「馬鹿野郎。こういう時ぐらい、遠慮なんかするな」
「……雅樹」
「あン？」
　雅樹は怒っていた。サンマさんにか、己にか、無茶をした莉鳥にかは自分でもよく分かっていない。
「野郎じゃない」
「は？」
　よく聞こえず顔を上げると、莉鳥は周囲を見渡していた。
「見て」
　サンマさんによって、魚怪人モドキに変えられた人々が、元に戻っていた。皆、自分の身に何が起きたか分かっていないようで、戸惑う声が聞こえる。
「これで正解みたい」
「倒せば戻る、か」
「あと一人――いえ、一匹かしらね」
　お野菜怪人も、そのモドキの姿も見当たらない。残るはお肉怪人のみだ。
　立ち上がろうとする莉鳥を慌てて支え、「あーっ、もうっ！」と雅樹は吐き出した。
「そこにいろ」
「え？」
「その足で走ったりしたら、よけい悪くなるかもしれないだろ？　そこにいろ！」
　雅樹はトートバッグを莉鳥に押し付け、座っているよう指で指示した。それから、落ちていた莉鳥の帽子を目深に被ると、くるりと背を向け、走り出したのだった。

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