襲来！　フード怪人！！｜リアクション

襲来！　フード怪人！！

　　　３

「ほら早く！」
「いーやーだー！！」
　金切り声が二つ。一つは母親、もう一つは六歳ぐらいの男の子だ。
「ほら見て！　好き嫌いなく食べないと、ああなっちゃうのよ！？」
「いやああああ！！」
「あの、何を……？」
　余計なお世話と思いつつも、遠海は声をかけずにいられなかった。
　母親は髪を振り乱し、凄まじい形相である。
「邪魔しないで！」
「邪魔するつもりはないですけど、お子さん泣いてますし、それにあっちは……」
　遠海はちらりと振り返った。親子が向かう先では、妙な怪人たちが騒ぎを起こしているのである。おかげで遠海は、楽器店を諦めざるを得なかった。
「いいのよ！　それが目的なの！」
「えっ！？」
「この子、偏食なの！　野菜も肉も魚も全然食べないの！　ご飯も嫌いだし、卵も駄目」
「……それ、何食べて生きてるんですか？」
「パン！」
と、男の子は言い切った。「ボクはパンが好き！　ほかのはきらい！」
「それじゃ生きていけないの！　ほら！」
「いやあああ！」
　再び引きずり始めた母親と、激しく抵抗する男の子を見て、遠海は迷った。ほんの一瞬。
　母親の手を叩き、男の子から離れたところをすかさずその子の腕を掴んだ。
「ちょっと！？」
　そして、男の子と共に走り去る。
「ちょっと！　何するの！？　誘か――」
　叫ぼうとする母親の肩を、ぽんと叩く者があった。振り返ると、お肉の塊がそこにいた。
「お前、好き嫌いはあるかぁーーー！？」
　動揺していたからだろうか、本当に迂闊なことではあったが、母親はつい答えていた。
「え？　馬刺しかしら――」
「じゃあお前が馬刺しになれぇーーー。馬刺しを理解するんだぁーーー」
　その母親が変身させられたことを、男の子も遠海も知らなかった。

「これ！　食べて！　これ！」
　羽生碧南は、スーパーで買ってきた唐揚げを、唐揚げに変身した誰かに渡した。しかし、唐揚げ怪人モドキはそれを叩き落として逃げてしまう。
「ああ！！」
　砂に汚れた唐揚げを見て、碧南は絶望の声を上げる。これで三度目だ。どの怪人モドキも、まともに食べてくれない。
　怪人たちは嫌いな食べ物に変身させた上、「好き嫌いなく食え」と言っているのだ。おそらく、それを食べれば元に戻るはずだが、モドキには「嫌い」という意識だけしっかり残っているらしい。
「やだやだやだ！」
　おまけに子どもの好き嫌いをなくそうと、親が我が子を引っ張ってきている。その結果、怪人モドキがどんどん増えるという始末だ。
「埒が明かない……」
　碧南は、諦めた。彼らに嫌いなものを食べさせることを。
「それが駄目なら……」
　周囲を見渡し、コンビニの幟に目をつける。自動ドアを開けて顔だけ中に入れると、
「これ！　借りますね！」
と言った。
「ああっ、お客さん、困ります！」
という店員の声は無視する。
　そして、お肉怪人の前に立ちはだかる。
「あんたなんか、野菜と一緒に野菜炒めとか鍋とかカレーにしてやるんだから！」
　お肉怪人は、
「お前、好き嫌いはあるかぁーーー！？」
と叫びながら、襲い掛かってきた。

このページにイラストを設定する