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　蒼破とわかれたあと、志波 武道はアウトレットの広場に居た。
　一般人に被害を出すことを目的に動くなら。広くて人の多い場所を選ぶだろうと考えたからだ。
　注意深く周囲を伺って、見つけたのは一人のサラリーマン。
　手持ち無沙汰に眺めているそのスマートフォンの画面には、何も映っていない。
　やがて正午の鐘が鳴り響いた直後、彼にだけ聞こえるように話しかける。
「もれいび？」
　サラリーマンの指先から、黒い火花が散った。
　黒光迸る手が、武道の顔面へ伸びる。
　その寸前、武道はサラリーマンの延髄に手刀を叩き込む。
　がっ、と呻いて昏倒するサラリーマン。
「すみません、この人体調悪いみたいで……」
　何食わぬ顔で近くの店の店員に託すと、再び人ごみの中へと戻る。
　途端に感じたのは、誰かの視線。それも肌を焼くような、敵意に溢れた。
　気付かれないようにしたつもりだったが、そうはいかなかったらしい。
　だが、おかげで武道に狙いを定めてくれるなら。
（見つけやすし、周りに被害が出ずに済む）
　すばやく視線を巡らせれば、一人の寝高校生と目があった。
　その瞳はうつろによどんでいて、それだけでも洗脳もれいびだと知れる。
　次の瞬間、寝高校生の身体が服の下で膨れ上がり――
「居た居たぁ☆　探しちゃったじゃん！」
　武道は、寝高校生に大声で手を振った。
　まるで、待ち合わせをしていた友人同士のように。
　虚をつかれたのか、寝高校生の動きが止まる。
　その隙をついて一気に、けれど傍目には友達へそうするような調子で駆け寄る。
「……ごめん」
　『スイ・マー』で足を突く。
　ガクッと態勢を崩したところを、身体を支えるフリをして延髄に一発。
　昏倒させた寝高校生を、さっきのサラリーマンと同じく近くの店員へと託した。　
　これで二人。でも、まだ多くのもれいびが洗脳されたままでいる。
（少しでも多くのもれいびを、誰も傷つけないうちに洗脳から解放してあげなくちゃ）
　操られたもれいび達にだって、フツウの生活があるはずで。
　事件を解決できても、彼らのフツウが壊れてしまえば意味がないのだから。
　周囲を伺う武道のに、何か弾ける音がする。
「っ！　あっちか！」
　走り出した武道は、気づけば拳を握りしめていた。
　爪が手のひらに食い込むほどに、きつく強く。




　トイレ前の廊下。
　身体を伏せたサキリ・デイジーカッターの頭上を、高速で放たれた石ころが通り過ぎていく。
　壁に当たった石ころが、破裂するように弾ける音が耳に響く。
　すぐさま飛び起き、SMGタイプのエアガンの引き金を引くサキリ。
　BB弾の弾幕に、石ころを無数に抱えた少年のもれいびが怯む。
　制圧を試みようとした瞬間、
「うわっ！？　なんだこれ」
　トイレの方から中年の声して、ろっこんの使用を一時断念。
「過激なフラッシュモブだよ。危ないから逃げたほうがいい」
　呼びかけつつ、深く身を沈めて疾駆。
　少年との距離を詰め、石ころを抱える手をはたき落とす。
「ほら、関係ない人を巻き込んじゃだめだろう？」
　そのまま背後にまわり、SMGで押さえつける。
　中年が急ぎ足で去っていくのを確認し、すかさず首筋に一撃。
　意識を失った少年をそのへんに寝かせてたところへ、息せき切ってやってくる人影が一つ。
　SMGを構えるサキリだったが、その顔を見てそっと銃口を降ろす。
　その人影は、武道だった。　
　絶好の機会だからと情報交換をする最中、サキリが不意に二階の廊下を撃った。
　なっ、と声を漏らす武道。サキリは変装用の帽子を目深に被り、
「洗脳もれいびだ――失礼」
　周囲の人目を確認し、『斬空赤刃』で廊下へと転移。
「サキリくん！　洗脳されてるけど、彼らも」
　階下の武道に、無言でうなずき返す。
　彼らはあくまで、洗脳されてしまった被害者なのだ。
　それはサキリも、理解している。
　あるいは、こうなる前に対処できていれば。
　そんなことを思うサキリに、夫婦と思しき壮年の男女が襲いかかった。
　妻が炎を放ち、夫は風のような速さでサキリの背後へと回り込む。
　横飛に炎を躱し、次いで急旋回。
　夫もれいびの足元を狙ってSMGを放ち、怯んだ隙に脇を走り抜ける。
　さらに数発浴びせてやれば、サキリの狙い通りに追ってきた。
　夫が妻を背負ってろっこんを使い、夫婦揃って高速で追いかけてくる。
　背負われた妻が、階段を駆け下りるサキリめがけて無数の火炎を放つ。
　その刹那、サキリは『斬空赤刃』を発動。
　階段から二人の背後へと転移し、そのまま赤く輝く刃で妻もれいびに峰打ち。
　夫もれいびが向き直った時には、その脇腹にも峰打ちが食い込んでいる。
　カエルを握りつぶしたようなうめき声をあげると、夫婦のもれいびは気絶した。
　近くのレストスペースへ寝かしてやっていると、廊下の向こうから駆けてくる足音が一人分。
　視線をあげれば、剣を手にしたもれいびの姿が一人。
　すかさず銃撃し、すぐさま転移。
　更に銃撃を重ねて挑発するサキリの背中に、浮遊するショッピングカートが振り下ろされた。
　すばやく身を躱し、振り向きざまに射撃。念動力系のろっこんなのか、中年女性が手を触れずにカートを振り回していた。
　再度カートを叩きつけられる寸前、さらに転移。
　サキリを見失い、辺りを見回していた剣のもれいびの死角へ現れる。
　気付かれるよりも素早く峰打ち。
　続けて転移し、中年女性のもれいびの意識も刈り取った。