シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●目隠しのお時間

「うぅ、もう食べれない」
「そうですね……」
　まだたくさんお菓子もお弁当も残っていたが、作り過ぎてしまったらしい。
　家に持って帰る頃には傷んでしまうかもしれない。
　森蓮としては、食材を無駄にするのは見過ごせないところだ。
　けれどそこを強く指摘すればいいというものでもない。
　蓮は人好きする笑顔を称え、提案した。
「ブラインド・ゲームをしませんか？」
　正式に名称があるわけではないが、蓮はそう呼んでいた。
　ルールは簡単。ひとりが目を閉じて歩き、もうひとりが目隠ししている人間の肩を掴んで方向を変えるという遊び。
　目隠しする道具がないという問題は「じゃあ肩を掴むんじゃなくて、直接目隠ししたらイイんじゃない？」という、野々ののこの珍しく最もな意見のお陰で解決した。
　それからわかりやすいように歩くコースを、目隠ししていない人にだけ伝えることに。
「運動をすれば、お腹も空くかもしれないですし……」
「面白そうだよね！」
　ののこはさっそく立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
　七夜あおいも綾辻綾花もすぐさま同意してくれた。
　ただ八神修は押し黙っている。
「お気に召しませんか？」
　蓮が控えめに尋ねると、「……いや、異論はない」と間々あって返事をくれた。
「止さんは如何でしょう？」
　さきほど突然倒れた女性――干車止は、糖分を取ったためか、はたまた蓮が差し出した経口補水液のおかげかつやつやとした顔色をしている。
　けれど熱中症は怖い。止は熱中症ではなく、足がもつれただけだというが……。
「私も、興味はあるなぁ」
　心配ではあったものの、
「無理はしないでくださいね？」
「ああ、もちろん！」
　既に準備運動を始めている彼女を止めることもできず、渋々ながら認めるのであった。

　急に倒れこむように転んでしまったことは、止にとって不覚としか言いようがなかった。
　挨拶をしようとしたのだけれど、挨拶をする前に転んでしまうなんて。
　恥ずかしくて逃げ出したくなった。
　けれど美味しいお菓子をおすそ分けしてもらって、こうしてわいわいと同級生と羽目をはずすことになって。
　これはこれで悪くないかな、と思えてくるのだから現金なものだ。
　苦笑いをしていると、綾花が「どうかしましたか？」と小首を傾げた。
「ううん、なんでもない」
　元気であることを示すように胸を張って首を振ると、綾花の表情があからさまに『ホッとしました』と語った。
　止はくじ引きの結果、止は綾花とペアを組むことになったのだ。
　背が低いと自負している止よりも低い身長の彼女。
　料理が上手で、本が好きで、それから、それから、胸が大きくて……。
　まるで正反対の彼女と組むことになるなんて、なんだか面白い。
　あとのペアはののことあおい。修と蓮。
「コースは今、説明したとおりです」
「はーい！」
「では、お好きなタイミングで始めてください！」
　蓮の合図を待って、「失礼しますね？」綾花がそっと後ろから止の視界を塞いだ。
　小さく柔らかい手がまぶたを覆う感覚は、こそばゆい。けれどそれ以上にもうひとつの柔らかさが気になって、止は息を呑んだ。
「痛くありませんか？」
「だ、大丈夫だ。じゃ、案内をよろしくな」
　大きいな。羨ましくないといえば、嘘になる質量感だった。
「は、はい」
　ブラインド・ゲーム、開始。