故郷での夏休み　セカンドシーズン｜リアクション

故郷での夏休み　セカンドシーズン

●仲が良いのか悪いのか……：真剣勝負編

　翌朝。美緒の母が作ってくれた朝食を食べ終えた佳奈と美緒は、剣道着に着替えると美緒の家の剣道場へ。
　本家たる美緒の家は数代前に伊豆大島から移住し、伊東一刀斎の子孫を自称している（真偽不明）ので流派『一刀流』の道場を開いている。
　寝子島にある佳奈の家の道場とは昔から夏と冬に合同練習や練習試合を行っている。
　地元のガキ大将だった美緒は地元では敵無しの腕だが、練習試合で一度も佳奈に勝った事が無い。
　本当は好きなのに、美緒が佳奈をライバル視しているのはこれが理由だ。

　今日は道場の練習日なので、ふたりも稽古に加わり素振りや撃ち返し、地稽古（自由に技を掛け合う稽古方法）といった練習を一通り行った。
「ふぅ、いい汗かいたぁ」
　練習が終わるとすべての防具をはずし、汗をタオルで拭っている佳奈が着替えようと道場を出ようとした時。
「さぁ佳奈、美緒と勝負よ！」
　道場の出入り口に立つ面と小手以外の防具をつけたままの美緒が、いきなり挑戦状を叩きつけた。
（前に手合わせしたの、いつだったかなぁ）
　と思い出しながら、佳奈は挑戦を受けることに。
「いいよ」
「そうこなくっちゃ！」
　また防具着けるの面倒だなぁ……と思いつつ、佳奈は面や胴、小手といった防具一式を身に着ける。

　審判は美緒の祖父と父、兄の誠也が。
「試合時間無制限、１本勝負だ」
「美緒はそれでいいわ。佳奈は？」
「あたしもそれでいいよ。さ、はじめよう」
　高校生の試合時間は４分だが、制限時間ありだと真剣勝負にならないという祖父の判断でこれで行うことに。
　紅白の旗を持った審判役３人は、各々の位置へ。赤旗は佳奈、白旗は美緒だ。
　美緒と佳奈が道場中央に進んで礼をし、三歩進んで蹲踞。
　主審を務める祖父の「始め！」の号令でふたりは竹刀の剣先をぶつけ、立ち上がるなり技を決めようと動く。
「イェー！」
　気合一閃、美緒は佳奈に打ちかかる。

　こうなるだろうと思った友人達は道場に来て、道場内で正座して練習の見学を。
「美緒ちゃん、頑張れー！」
　友人達の声援のもと、美緒は息をつかさぬ連打で佳奈に打ちかかるも捌かれてしまう。
（力が入り過ぎだよ、美緒ちゃん）
　勝とうとする意識が強いため、美緒が力んでいるのは一目瞭然。
　それに対し佳奈は冷静に対処し、捌いては打ち、打っては竹刀で受け止める。
（なんで当たらないのよ！）
　カッとなった美緒は一気に決める！　と大振りで面を決めようとするが、足さばきで身を躱した佳奈が美緒に素早く近づいてきた。
「小手ぇー！」
　勝ちに焦るあまり、打撃と竹刀捌きの正確さを欠いた美緒は佳奈に瞬く間に小手を奪われた。
「一本！　勝負あり！」
　審判役の３人は、一斉に赤旗を掲げる。
「悔し～！」
　地団太を踏み、美緒は敗北をものすごく悔しがる。
「美緒ちゃん、もう少し落ち着いて打たないと」
　佳奈のアドバイスは、悔しがる美緒には聞こえていない。
（実力はあるんだけど、何故か、あたし相手だと冷静さを欠くみたいなんだよね。どうしてかなぁ？）
　自分より実力があり、強いのに佳奈が絡むと頭に血が上り、冷静でいられなくなる。
　その理由が何故なのか、佳奈には見当がつかない。

「美緒ちゃん、すごかったよ。負けたのは惜しかったね」
　そう言った友人の一言に「本当？」と半ベソをかきながら訊ねる美緒。
「本当にすごかったよ。迫力あったし」
「勝負は佳奈ちゃんの勝ちだったけど、気迫は美緒ちゃんのほうがすごかったよ」
　友人達に「ありがとう……」と赤くなった顔を見られたくないのでそっぽを向き、お礼を言う美緒だった。