故郷での夏休み　セカンドシーズン｜リアクション

故郷での夏休み　セカンドシーズン

●京都で深まる恋人達の絆

「立ち話もなんだから、上がってちょうだい。水樹さん、あなたのお話を聞かせてほしいわ」
　水樹を気に入ってもらえてよかった、とヒューは安心した。
　祖父は水樹のことが気になるのか、時々チラ見している。
　夕食はヒューと水樹が、祖父母と向かい合って食べる。
　若い人のお口に『おばんざい』は合うかどうか……と、祖母は少し不安そうだ。
「おばんざい、って何ですか？」
「昔より、京都の一般家庭で作られてきた惣菜の意味で使われる言葉だよ」
　祖母が作ったお惣菜は美味しいよ、とヒューは水樹に『たいたん』（鰹節、昆布、椎茸のうま味を付けた煮物）を勧める。
　水樹は「いただきます」と合掌し、箸を手に取るとヒューが進めてくれたものを食べ始めた。
「……美味しい。京料理と同じで薄味なのね。椎茸のうま味が良く出ていますね」
　他の献立は、葉物野菜や根菜類をお揚げさん（油揚げ）と煮たものや、加茂ナスの煮びたし。
　ハモの湯引きや天ぷら、だし巻き卵といった京都ならではの家庭料理がテーブルに並んでいる。
「祇園祭の暑い季節に長いものを食べると精力が付くとして、ハモはウナギ同様に食べる風習があるんだ」
「ハモは、京都のウナギみたいなものなのね。勉強になったわ」
　食事の時間も気難しい顔の祖父だったが、水樹が礼儀正しく、京料理に興味を示した様子を見て、今時の若い娘とは少し違うと思った。
「水樹さんとやら。ヒューのこと、よろしく頼む」
　冷酒を一口飲み終えた祖父の一言に、水樹は驚いた。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ！」
　急にそう言われたので、深々とお辞儀してテーブルに頭をぶつけて痛い思いをした水樹だった。
　好印象を持ってもらえた様子だったので、ヒューは一安心。
　夕食の時間はどうなるかと思われたが、終始、和やかな雰囲気だったので水樹もヒューも落ち着いて祖母が作った夕飯を食べることができた。

　翌日。
　涼しいうちに、昨日とは違う通りや街をふたりで手を繋いで歩き回った。
　人が少ない通りを抜けると、中規模といえる霊園が見えてきた。
　霊園の近くにある雑貨店で仏花とお墓参りを買い、ある墓へと向かう。
　ふたりが辿り着いたのは、ヒューの母の墓前だった。
「母の墓参りに水樹も来てほしかったんだ。君を紹介したくてね」
「だから、帰省の時に数珠を持ってきてほしいと言ったのね」
「そうだよ」

　墓参りの前に掃除、と、霊園から箒とちりとり、バケツと雑巾を借り、母の墓とその周辺を綺麗にする。
　綺麗になったところで仏花を備えてから墓石に水を打ち、線香あげて手を合わせる。
「母さん、僕の彼女を紹介します。モデルとキャンペーンガールをしている城山水樹さんです」
「はじめまして、城山水樹です」
（亡くなっている人に「はじめまして」はおかしいかしら？）
　そう思ったが、紹介してもらったので自己紹介を。
「ここには、母の遺骨が入っていないんだ」

　３年前。
　日本人の母がスキーリゾート地で不運にも雪崩に巻き込まれて亡くなった。
　懸命に母の捜索は続けられたが、手を尽くしても遺体は発見には至らなかった。
　なので、母はその山の一部となり、永遠の眠りについている。
　英国人の父とは１０年以上も音信不通なので、母が亡くなったことを知らせることはできなかった。
　ほぼ天涯孤独となった身だが、京都には母方の祖父母が。そして、今は水樹が側にいる。
「母さん、僕は今、幸せです」
　そう言って、ヒューは帰る前にもう１度手を合わせた。

　墓参りの後、京都の町を適当に歩きつつ2人の絆を深めるのだった。

このページにイラストを設定する