故郷での夏休み　セカンドシーズン｜リアクション

故郷での夏休み　セカンドシーズン

●父と会い、祖父と稽古を

　真境名アリサが２０歳になったばかりの頃。
　ブラック企業から逃げるように退社した後、派遣の仕事を転々とし次の仕事を探していた時。
　木天蓼市内のある会社の面接を受けた帰りに、現在の職場にスカウトされた。
　スカウトされた当初はどのような仕事かわからなかったが、興味が湧いたので名刺だけ貰った。
　店を訪れ、面接を受けて結果が出て、仕事内容を知った時はさすがに面食らったが給与や待遇が良かったので働くことに。
　オーナーも店長も同僚も悪い人はいなかったし、中学・高校と体操をやっていた経験がポールダンスの習得に役に立った。
　職種柄スケベな客もいたが、それは仕方がない。
　仕事ぶりが店長に認められたのか、空席になっていた副店長に昇格。
　返事を忘れて突っ立っていたが、悪い話じゃないだろうと上機嫌な店長の声に本当だと理解できた。
　性に合っているのか、今までのところ『ジュエル』での仕事は長続きしている。
　副店長になって数ヶ月間、目が回るほど忙しかった。
　せっかくの夏休みは、実家で過ごそうと決めた。

　全日空で那覇まで飛び、空港から30分ほどバスで揺られて向かった先にアリサの実家がある。
　ふらりという感じで実家に顔を出し「ただいまー」と声をかける。
　母と祖父母、意外な人物が出迎えてくれた。
「あれ？　パパ、どうしてここにいるの？」
　その人物は元米空軍技術大尉で、現在はシアトルにある航空機メーカーでアビオニクスの開発に携わっている父だ。
　仕事の合間を見て祖父から沖縄空手を学んでいた頃に母と出会い、娘であるアリサが生まれた。

　仕事で沖縄に来ていたらしく、そのついでに家に顔を出した、というところね……とアリサは思った。
　滅多に会えない父に会えたので、帰省中、父がいる間は親子水入らずで過ごせそうと微笑むアリサだった。

　帰省した目的はただひとつ。
「久しぶりに、おじぃに稽古つけてもらうか」
　アリサの祖父は沖縄空手の師範で、彼女も幼い頃から稽古をつけてもらっていた。
　空手の稽古は、いざという時に役に立ったので祖父に教わって良かったと思う。
（でないと、あの時、コテンパンにやられていたわね）
　イタリアンの大衆向け小規模レストランで迷惑な不良学生たちを店から遠ざけたことは、祖父との稽古がものすごく役立った。

　久しぶりに道着を着て、道場で弟子たちに交じって父と一緒に稽古に励む。
　元軍人ということもあり、道着姿の父の体格はいい。祖父は、年齢を感じさせないほど気合十分。
　長らく離れていても、一人で演武する空手の練習形式である型は身体は覚えているので動作は容易くできた。
　一通り型を終えると、祖父と父と組手を。
　稽古を長いことしていなかったこともあり、腕はかなり鈍っているようだった。
（稽古して、鈍ったカンを取り戻すわ）
　お店に来た迷惑な客を追い払うことに役立つかもしれない。
　そう思い、実家にいる間、アリサは祖父に稽古をつけてもらったり、父と組手をしたりと稽古に励んだ。
　
　空手の稽古以外は地元の友達の所へ顔を出して適当に遊んだりしつつ、のんびりと束の間の休暇を過ごす。
　待ち合わせをしていても、遅れてきた友達は謝ることなく「今日も暑いねー」と挨拶を。
　本土と異なる時間感覚・ウチナータイムは、沖縄における人間関係の潤滑剤として実にうまく機能している。

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