未来の寝子島にあなたはいますか？｜リアクション

未来の寝子島にあなたはいますか？

　薄暗い一室で佐和崎紗月は目を覚ました。
「頑張ろう」
　小声で気合を入れる。身嗜みを整えると速やかに部屋を後にした。
　紗月は白いエプロン姿でキッチンに立った。カロリー計算に基づいた一品を次々と作り上げていく。
「そろそろかな」
　壁掛け時計の時間を見て小走りとなった。
　廊下の中程で足を止める。くるりと回ってドアと向き合う。
「……笑顔、笑顔」
　紗月は口角を上げた。その表情のまま、ノックをしようとして固まった。
　ドアが勝手に開いて初瀬川理緒が現れた。艶やかな黒髪を緩く編み込み、白いチュニックに青いスリムパンツを合わせていた。
「紗月、目が丸くなってるよ」
「いつもより早くて、少し驚いたかな」
「今日は決戦の日だからね」
　大人の雰囲気を覆すような笑みでキッチンに向かう。紗月は慌てた様子で付いていく。

　猫脚のダイニングテーブルには数々の料理が並ぶ。席に着いた理緒は軽く仰け反った。
「品数の多さにびっくりよ。どれも美味しそうで目移りするわね」
　正面にいた紗月は照れたように笑う。
「今日は忙しくなると思うから」
「あたしよりも紗月の方が気合入っているんじゃないの？」
「少しは気になるし、でも、決戦とかは思ってないから。理緒ちゃんにはグラビアアイドルとして頑張って貰いたい。それだけだからね」
　紗月は前のめりになって気持ちを伝える。理緒は笑って頷いた。
「可愛らしい紗月の為に今日は頑張るね」
「……早く食べないと冷めるよ」
　照れ隠しの一言で二人の朝食は始まった。
　理緒はキッシュを口に運ぶ。幸せそうな笑みで味を噛み締める。フルーツを添えたカナッペは一口にした。会話を楽しむ間がない。
　紗月は無言の称賛を快く思い、静かに微笑んでいた。
　残りの品は僅かとなった。理緒は紙ナプキンで口元を拭う。コンソメスープのカップを傾けていた紗月に目を向けた。
「高校の頃は消極的で弱々しかったのに、人ってわからないものよね」
「十年も経てば人は変わるよ。それに広報課に勤めている私が引っ込み思案のままだったら、今日の撮影は実現しなかった訳だし」
「寝子島電鉄の広報様のおかげで良い仕事が貰えました。ありがたや～」
　理緒はおどけた口調で手を合わせた。紗月は朗らかに笑って返す。
「先輩らしく、後輩の桃井かんなちゃんに接してあげてね」
「グラビアアイドルの女王として君臨しているから、少し厳しくなるかもしれないけどね」
「程々にしてね。まあ、理緒ちゃんらしいけど」
　二人は笑って朝食を終えた。

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