＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●『時』と『三人』

　寝子島、R&R事務所のクーラーの効いた椅子に座り、マウスを操りながら桜月は通信機器に向かって話しかける。パソコンの画面上にいくつも開かれたウィンドウ。眼鏡に映り込むそれらは、ニュースサイトやオカルトサイト、世界のさまざまな伝承をまとめたサイトなど多岐にわたる。

「まず、北極に現れた湖だけど、タイムスタンプが１ヶ月以上前の北極関係のサイトではまったく話題になっていない。今まで実在していなかった物が、何かの事情で現れたんじゃないかと思われるよ。――時期から考えると、月の異変や絶神と関係があるのかもしれない」

　そういって月は、別のウィンドウを最前に表示させる。

「それから、もうひとつ気になったのは『時』と『３人』に関する伝承だ。ギリシア神話のモイライ、ローマ神話のパルカイ、北欧神話のノルニル――運命を司る三女神、あるいは魔女の伝承は数多い。マクベスの荒野の魔女しかり、三人ではないが茨姫に眠りを齎す糸紡ぎの魔女もその派生と考えられていたりする」

　茨姫から連想するのは、絶神を封じていた茨の遺跡、３色の仕掛け。ここでも３が出てくる。

「《時の特異点》が運命の分かれ道なのだとしたら、なにか関係があるんじゃないかと思って、玉手箱の写真を調べなおしてみたんだ」
　鈴島海賊の宝であり、海底の国から時を経て戻ったこの奇妙な小箱には、細かな意匠細工が施されていた。
　梨香はかつて、この玉手箱を写真に取り、資料データとして事務所のパソコンに保存していた。月はその写真データを新たな視点で調べなおしたのである。すると玉手箱の底にあたる部分に、まるで糸車のような輪の模様と、その輪を支える３人の女のような図柄が見て取れたのであった。

◇

「もしかして……、開けるためには女性３人で、玉手箱を持ってみたらいい……ということ？」
　遠く離れた北極で、月の推察を聞いていた恵御納夏夜が閃く。
　玉手箱を開く三人に立候補し、夏夜、梨香とともに玉手箱を手にしていた八神修は、自然と四十九院先生を振り返っていた。
「どうやら俺は先生と交代する方がよさそうですね」
「……その役、引き受けますわぁ」
「先生！」
「グランパが言ってたわ。そういうのは大概罠だって」
　桜庭円とブリジット・アーチャーが引き留める。しかし四十九院先生はゆるり首を振った。
「このために来たんだろうと思うんです。『時』を解き放つひとりは私。『過去』役にはぴったりでしょう」
　『現在』役に夏夜を指さす。
　そうなると『未来』役は梨香になるが、ここで梨香は、自分に変わって円を指名した。
「『未来』は桜庭さんに託したい。なぜなら――」
「ボクのろっこんだね、リッカ先輩」
　円のろっこん＜ブレイブハート＞は、自発的に危険度の高い行動を取る運が良くなるという漠然としたものだが、何が起こるか分からない局面だからこそ、運が何かを左右するかもしれない。
「それに、ずっとこの玉手箱の事も気にかけてくれていたから」と梨香は言った。
「やるよ。面白そうなことに挑戦するの、割と好きなんだボク」
　知ってたわ、と梨香は笑って場所を譲る。

　改めて、四十九院先生、夏夜、円の３人が、黒衣のミイラの真上で玉手箱を捧げ持った。

　３つの手を蓋に添える。

「あっ――」
「動く――」
「持ちあげますわよ――」

　３人の手によって、封じられていた赤い小函の蓋が開く――！

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