＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●湖中の女

　湖中の女がどのようなものかは分からないが、なにか四十九院先生――もしくは、黒烏のらっかみクローネと関係あるのであろう、という推測は、誰もが持っていた。
　湖を歩いて近づいた一行は、横たわる黒衣の女性を取り囲むように輪になった。
「湖の女性……クローネの親の生まれ変わり？　それとも……ここだけ時間が違って、この女性は九十九院センセ自身？」
「二人になってる、というのはあり得そうな話だ」
　志波武道と夜海霧楓が囁くように推察を交わし合う間、桜庭円は四十九院先生の一歩後ろに立ち、彼女が纏う白い衣の端をしっかりと掴んでいつでも湖中の女性と先生を引き離せるように警戒を怠らない。

　瞬間移動のろっこんで有事の際はすぐに逃げることができるサキリ・デイジーカッターが、湖中に手を差し入れて女性に触れてみようと試みた。しかし、この水はいったいどうなっているのか、硬い透明の壁のようなものに阻まれて、女性に触れることは叶わなかった。
「自然に出来た物ではなさそうだね。おそらく玉手箱と関係があるのだと思うけど」
　振り返って玉手箱を持つ梨香を見る。
　梨香は、玉手箱を取り出し、一瞥してからミラを見た。
　ミラは湖の色とよく似た青い瞳を不安げに揺らして無言だった。
「玉手箱、って時が入ってるっていう話だよね」
　円がミラの頭を、ぽん、と撫でる。
「そうですわね……」
　ここが時の特異点で、今、『四十九院鸞』と『赤い小函』という鍵が揃ったことは、ミラにもわかっていた。しかし、ここで何が起こるのかは、ミラにもよくわかっていないのだ。
「ねぇ《時の特異点》ってミラちゃんなんなんのー？」
「運命の変わり目――と言ったら少し分かりやすいでしょうか。時は決して一本道の線路ではなく、いくつもの分岐点があります。その分岐点にあたる時・場所で、誰がどんな選択をするのかで、未来は変わってくる。それが私が予知できる《時の特異点》――いま、ここも、そうです」
「今、私たちが何をするかで、未来が変わってくるってことー？」
「はい」
「玉手箱を開けない未来と、開ける未来、とかかな」
　円が、ふたつの未来を両手に乗せて見比べるかのように、上向きにした左右の手を交互に見る。
　意思決定に一石投じたのは御剣刀だった。
「玉手箱、開けよう。とりあえず何かしてみないと事態を動かせないだろう？」
「そうですね」
　意を決したミラが頷き、梨香が箱を湖中の女の上に掲げる。
「たしか３人で開けるという話だったわよね」
　残りの２人には八神修と恵御納夏夜が立候補し、梨香と３人で玉手箱を持ってみた。
　が、箱はうんともすんとも言わない。
「玉手箱が３人いないと開かない理由は、単純に『過去』『現在』『未来』だろうが……条件があるのか？」
　楓は、顎に手をあて思案した。
　伏見真がそれに頷く。
「誰でもいい３人じゃあかんてこと？　年齢の違う、とかそういう条件あったり？」

　寝子島にいる桜月から通信があったのは丁度そのときである。

　――『時』と『３人』をキーワードに調べていて、面白い話を見つけたんだ。

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