- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
NECO MUSIC FES 1370！
眩しい日差しも爽快な音楽も遮る分厚い天幕の中に深倉 理紗子はいる。
「……軽い熱中症ですね」
眩暈を覚えて救護室を訪れた女性に、理紗子は穏やかに告げる。救護室の一角に用意されたベッドでしばらく横になって休むように言い、女性を連れて来てくれたバイトの少年、北里 雅樹に後を任せる。
「扇風機の風を当ててあげてね」
言い置いた次には、転んで怪我をした小学生が友達の付き添いでやってきた。擦りむいた膝の砂を水で流し、軽く消毒をして処置はお終い。沁みる消毒液に涙目になりながらも堪えた子どもを優しく褒めて、こちらは引き続きお祭りを楽しんで来てねと救護室の外へと送り出す。
ネコフェスのロゴ入りTシャツの上に羽織った白衣の袖をまくり上げ、汗ばんだ頬で小さく息を吐く。
本来であれば、仕事は休みのはずだった。
(今の時間なら)
救護室の机に置かれた時計をちらりと見遣る。午前のこの時間は、疲れ果てた身体をエアコンの効いた部屋のベッドに倒れ込ませ、惰眠を貪っている頃か。
「先生」
「はい」
新しい患者を告げるスタッフの声に、理紗子は柔らかな翠の瞳をもたげる。いつもは眠っている時間かもしれないとはいえ、今の己は寝子島総合病院から派遣された医師としての職務に就いている。運び込まれる人の多くは大したこともない症状であったり擦り傷程度の怪我であったりするけれど、とはいえ気を抜くわけにはいかない。
スラックスの足を運びながら、それでもとりあえずサンダルを履いて来て良かったとちらり、思う。
(そういえば)
去年のネコフェスには観客として参加していた。身体の芯まで響く大音量の音楽をそれなりに楽しんでいたけれど、
(去年も暑かったわね)
すぐ近くの観客が熱中症で倒れ、居合わせた医師として救護に当たった。その流れで一緒に救急車に乗り込み、結局寝子島総合病院にまで行く羽目にもなった。
流石に水着姿ではなかったが、青紫色のタンクトップにショートパンツにサンダルという至ってラフな姿であったため、普段の地味な印象とはあまりに違う姿に同僚や看護師に驚かれてしまった。
(今となってはいい思い出、……でもないか)
ネコフェス開始直後から絶えずやってくる怪我人や急病人を診る仕事を淡々とこなす。陽が高くなるにつれ熱中症で倒れて運び込まれる人が増加してきて、
(何だかまるで)
その対応に追われながら苦く笑う。
(普段とさして変わりないじゃない)
そうであるからこそ、時間の過ぎるのは早く感じられた。
僅かに空いた時間の合間を縫ってカルテを書き込みながら、祭りの喧噪と天幕に遮られていることに相まってひどく遠く聞こえる音楽に束の間耳を澄ませていて、
(……)
ふと、ヴァイオリンの音色を聴いた。重なり連なり、天の高みにまで到達しそうなほどに蒼く透き通って聞こえる、二重奏。
(……まーちゃん)
胸の奥、細い医療用針で突かれるほどにささやかな痛みが走った。つ、と感じた痛みに手にしたペンの先が僅かに乱れる。
(まーちゃん)
軽い疲労を感じた振りをして眉間を片手で抑える。そうでもしなければ、涙が滲みそうだった。
(まーちゃん……)
想うのは、親友だった深林 真瞭のこと。
先日見た、夢のこと。
かけがえのない親友だった。確かに、間違いなく親友だった。お互いがお互いを癒すことが出来ると、支えることが出来ると、互いにそう思っていると信じていた――桜舞い散るあの日までは。
(痛い)
胸に覚えた痛みが消えず、理紗子は途方に暮れる。親友だった彼女のことを思えば想った分だけ、胸の痛みが増す。胸を刺す針が身体の奥へ奥へと潜り込んでいってしまう。
(けれど、)
痛みを癒す術を理紗子は知らない。探ろうとすればするほど、足掻けば足掻くほど、針は血流に乗って身体の奥へ進んでしまう。
(どうしたら)
このままでは、取り返しがつかなくなってしまう。取り戻したいと思っているのに。あの日、あの夢の中で差し伸ばされた手を、あの夢の中のように掴みたいと願っているのに。それなのに、
(まーちゃん)
悲鳴じみて、親友だったひとの名を心の中で繰り返すしか今はできない。
「……軽い熱中症ですね」
眩暈を覚えて救護室を訪れた女性に、理紗子は穏やかに告げる。救護室の一角に用意されたベッドでしばらく横になって休むように言い、女性を連れて来てくれたバイトの少年、北里 雅樹に後を任せる。
「扇風機の風を当ててあげてね」
言い置いた次には、転んで怪我をした小学生が友達の付き添いでやってきた。擦りむいた膝の砂を水で流し、軽く消毒をして処置はお終い。沁みる消毒液に涙目になりながらも堪えた子どもを優しく褒めて、こちらは引き続きお祭りを楽しんで来てねと救護室の外へと送り出す。
ネコフェスのロゴ入りTシャツの上に羽織った白衣の袖をまくり上げ、汗ばんだ頬で小さく息を吐く。
本来であれば、仕事は休みのはずだった。
(今の時間なら)
救護室の机に置かれた時計をちらりと見遣る。午前のこの時間は、疲れ果てた身体をエアコンの効いた部屋のベッドに倒れ込ませ、惰眠を貪っている頃か。
「先生」
「はい」
新しい患者を告げるスタッフの声に、理紗子は柔らかな翠の瞳をもたげる。いつもは眠っている時間かもしれないとはいえ、今の己は寝子島総合病院から派遣された医師としての職務に就いている。運び込まれる人の多くは大したこともない症状であったり擦り傷程度の怪我であったりするけれど、とはいえ気を抜くわけにはいかない。
スラックスの足を運びながら、それでもとりあえずサンダルを履いて来て良かったとちらり、思う。
(そういえば)
去年のネコフェスには観客として参加していた。身体の芯まで響く大音量の音楽をそれなりに楽しんでいたけれど、
(去年も暑かったわね)
すぐ近くの観客が熱中症で倒れ、居合わせた医師として救護に当たった。その流れで一緒に救急車に乗り込み、結局寝子島総合病院にまで行く羽目にもなった。
流石に水着姿ではなかったが、青紫色のタンクトップにショートパンツにサンダルという至ってラフな姿であったため、普段の地味な印象とはあまりに違う姿に同僚や看護師に驚かれてしまった。
(今となってはいい思い出、……でもないか)
ネコフェス開始直後から絶えずやってくる怪我人や急病人を診る仕事を淡々とこなす。陽が高くなるにつれ熱中症で倒れて運び込まれる人が増加してきて、
(何だかまるで)
その対応に追われながら苦く笑う。
(普段とさして変わりないじゃない)
そうであるからこそ、時間の過ぎるのは早く感じられた。
僅かに空いた時間の合間を縫ってカルテを書き込みながら、祭りの喧噪と天幕に遮られていることに相まってひどく遠く聞こえる音楽に束の間耳を澄ませていて、
(……)
ふと、ヴァイオリンの音色を聴いた。重なり連なり、天の高みにまで到達しそうなほどに蒼く透き通って聞こえる、二重奏。
(……まーちゃん)
胸の奥、細い医療用針で突かれるほどにささやかな痛みが走った。つ、と感じた痛みに手にしたペンの先が僅かに乱れる。
(まーちゃん)
軽い疲労を感じた振りをして眉間を片手で抑える。そうでもしなければ、涙が滲みそうだった。
(まーちゃん……)
想うのは、親友だった深林 真瞭のこと。
先日見た、夢のこと。
かけがえのない親友だった。確かに、間違いなく親友だった。お互いがお互いを癒すことが出来ると、支えることが出来ると、互いにそう思っていると信じていた――桜舞い散るあの日までは。
(痛い)
胸に覚えた痛みが消えず、理紗子は途方に暮れる。親友だった彼女のことを思えば想った分だけ、胸の痛みが増す。胸を刺す針が身体の奥へ奥へと潜り込んでいってしまう。
(けれど、)
痛みを癒す術を理紗子は知らない。探ろうとすればするほど、足掻けば足掻くほど、針は血流に乗って身体の奥へ進んでしまう。
(どうしたら)
このままでは、取り返しがつかなくなってしまう。取り戻したいと思っているのに。あの日、あの夢の中で差し伸ばされた手を、あの夢の中のように掴みたいと願っているのに。それなのに、
(まーちゃん)
悲鳴じみて、親友だったひとの名を心の中で繰り返すしか今はできない。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2019年03月28日
- 参加申し込みの期限
-
- 2019年04月04日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2019年04月04日 11時00分
