伊豆で泳ごう！　夏の臨海学校！｜リアクション

伊豆で泳ごう！　夏の臨海学校！

◆三日目：レクリエーション～干物と砂と大室山～

「先輩、遠泳に参加してたなんて意外ですね……？」

　泳ぎ切り、いい気分のまま砂浜に上がった碧南は、想い人である鷹取洋二の姿をそこに見て心拍が一つ飛んでしまった。

「もちろん！　折角の学校行事、楽しまなくてはね」

　洋二は爽やかなトーンでこう返すと、自分の肉体を誇るようにポーズを取る。思いがけないサービスショットに碧南の心臓はまたどくりと跳ね上がった。

「それに、美しい物は皆で共有しなければもったいないと思わないかい！　ははは！」
「え？　それって……」
「そう、この肉体美！！　皆に見せなくては！」
「そ、そうですね……」

　いつも通りの洋二の姿を見て、複数人の生徒が面白がって手を振っている。洋二はにかっと笑って彼らに手を振り返し、BBQの人だかりに加わる。碧南はその後ろをせっせと付いていった。

「泳ぎきれたかい？」
「はい！　あ、と、取り分けます」

　そんなこんなで二人はBBQ中取り留めのない話をしていたが――碧南はドキドキしっぱなしで、何を食べたかさっぱり覚えていなかった。
　そのままレクリエーションの時間となったが、碧南はスイカ割りをする生徒を避けつつ洋二のところに向かう。しかし彼はスケッチブックを抱えていた。邪魔しては悪いと、碧南は離れようとしたが、洋二がそこを呼び止める。

「ちょうどいい、モデルになってくれないか？」
「ええ！？　そんな、」
「嫌なら別の人に頼むが……」
「や、やります！」

　幸か不幸か、碧南の心臓は宿に戻るまでずっとドキドキしっぱなしであった。

「ふぅ……」

　ドキドキしている碧南を横目に、絢は競泳水着のまま浜辺をうろうろと歩いていた。そうして遠泳で疲れた身体を癒そうと、空いている場所に腰掛ける。不調は無くともなんとなくだるくて、泳ぎ直す生徒たちをぼんやりと眺める。

「眠くなってきた……」

　寄せては返す波の音を聞いているうちに、彼女は段々眠くなった。それに伴い絢の身体はくたりと弛緩するが、カンカンと照り付ける太陽に目を細め立ち上がる。またしばらくうろうろして、木陰になっている場所を見つけると、彼女はそこに腰掛け瞼を閉じた。
　遊ぶ生徒たちの声は最初のうちはうるさく響いていたものの、気が付けばぼやけて溶けていく。絢はそのまま夢の世界に沈む。どんな夢を見ているのかは、誰にもわからない。

　絢が昼寝をしているその後ろで、海はぼんやりとした頭を動かして刀の姿を探した。

　――ん……昨日ちょっと夜更かししすぎたかも。

　昨晩の散歩は楽しかったけれど、犠牲になった睡眠時間は海と刀の二人に牙をむく。うとうとしている彼女は刀の顔を見ると、ふにゃふにゃした足取りで彼のもとに向かった。

　――ちょっと眠っちゃいそう……。

　そう考えているのは海だけではなく、刀もまた、

　――眠い……調子に乗って夜更かしし過ぎた。

　と考えつつ大室山へ向かう。暑さに耐えながらリフトに乗り込み、それが動くまで窓の外の景色に目を向けた。

「のんびりしてて良さそうだな」
『うん、ゆっくりできそう』

　そういう二人の声はどこかふわふわしていて、刀は眠気に負けそうな自分に気付く。

　――適当な所で寝ちゃっていいかな～……。

　彼はそう考えるも、ふるふると頭を振って、

――いや、寝過ごしたらヤバいから頑張って起きてるか。

　と気を引き締めた。リフトが動き出し、心地よい振動が二人を揺らす。肩に感じる重みに刀は驚いた。眠気でいつもよりヤバい理性が彼の心をかき乱した。ちょっとの自問自答の後、刀は口を開く。

「海さーん、そうやって無防備に寝ていると男に悪戯されちゃいますよ？　俺とかに」

　そう言っても海は梃子でも動かず、すうすうと寝息を立てている。リフトが止まるまで、刀は悶々とし続けていた。