緑の進撃・猫鳴館の乱｜リアクション

緑の進撃・猫鳴館の乱

「！？　なんてことをしてくださいますの！」
　彼女の抗議に、刀は何も答えず目だけで「やらせない」と訴える。けれども、ポリタンクの蓋を開けて灯油をぶっかけようとする瓢までは止められなかった。こちらは庚が対処しようとしたのだが、瓢に軍配は上がったようだ。
「捕まってる人もいない！　燃やすなら今だよぃ！！」
「お前は火災を起こすつもりか！？」
　羽交い絞めしようとする庚を振り切り、灯油をぶちまけて落ちていたマッチで火をつける瓢。流石に乾燥していない分炎は小さいものの、苦しむように身悶えるウツボカズラはさらに激しく身を震わせる。消化液もまた炎を纏って溢れ、囮をしていた面々は必死に避けた。ただ、足が不自由な岬は避けきれず、そこへと飛び散っていく！　だめか、と思ったその刹那、岬の前に白い影が飛び込んだ。
「させるかっ」
「！？　クロウディアちゃん！」
　間一髪の所でクロウディアが庇い、岬を抱えて一旦下がる。そして入れ替わるようにいいながウツボカズラの気を引き、龍八がろっこん『破空法』を発動させて襲いかかる蔦を天へと吹き飛ばす。
「くくくっ、いい眺めだよぃ！　燃えろ、燃えてしま……えっ？！」
　燃えるウツボカズラを眺めていた瓢だが、そこに焦げ臭い匂いを放つ蔓が襲いかかる。炎を纏った消化液が掠め、瓢は慌てて避けようとして尻餅をつく。が、そこは庚が首根っこを掴んで引きずった事で難を逃れた。
そして燃える消化液はドラム缶にも襲いかかり、嫌な音を立ててボロボロになっていく！　その様子に草刈り班などに戦慄が走る。
「危ないのだ！　さらにピンチなのだ？！　こんな時は水なのだ？」
「いや、消火器の方がいい！」
　後木真央が水道へ駆け出そうとしたのを、白衣を靡かせた伊賀解理が呼び止め二人で倉庫へと走る。その間にもウツボカズラは暴れまわり、あちこちに蔓を伸ばした。
「ぬ？！　こっちに来……うわっ？！」
「オイラに捕まって！」
　逃げようとしてバランスを崩した伸幸に駆けつけた没が言う。彼の言うとおり捕まった伸幸は没のろっこん『神出鬼没』によって難を逃れる。また再びろっこんを使って刀を具現化させた櫻はその蔓を勢いよく切り払った。そして、未だ陣を描いている天野達をかばうように立ちふさがった。

　裏庭菜園側では、美咲紀が燃やされるウツボカズラに悲鳴を上げたり、次々に発現するろっこんに「ちょっとやりすぎでしょ」とか「？　いつのまに？」とかツッコミを入れたりしつつもウツボカズラへと歩み寄ろうとしていた。
「おっきいだけのただの植物ちゃんだもの、迸る愛は優しくしてあげればちゃんと伝わるわよ！」
「いや、それどころじゃないんだ。このまま突っ込んだら大変な事になる」
　士は冷静に説得するも、美咲紀はハサミを握りしめ、ポニーテイルを揺らして抗議する。相手は『もれいび』ではないと感じた修はどうにか美咲紀が理解しやすいように、と考えながら説得する。
「あれはただの植物じゃなく突然変異種だろう。消化液は人間の皮膚すら溶かすほどだ。おとなしくなるまで待っておいたほうが得策だぞ」
　それでも美咲紀は諦めず前に出ようとするのでどうにか士と修が押さえ込む。体力のない修はすこしめまいを起こしそうになりつつも被害を増やさないために頑張った。
　そんな声を聞きながら、空音は資料を見ながら只管陣を書き、ちらりと雑草を見る。
「地下帝国にお持ち帰りしたいのに燃えてる……」
「今はそれどころではありません。こっちに集中しましょう」
　零葉の言葉に頷く空音。その傍らで、天野はふう、と息を吐き額の汗を拭う。そして２人がもう直ぐ書き終わる、と確認して呟く。
「タイミングよくこの中へ入ってくれたら……」