緑の進撃・猫鳴館の乱｜リアクション

緑の進撃・猫鳴館の乱

【真逆コンビ】　猫鳴館にようこそ！裏庭菜園編

前奏：立つ鳥、来る鳥、呼ぶ鳥

　――梅雨も間近になった、６月のある日。

　その蒸し暑い中、猫鳴館の階段下で一人佇む者がいた。彼はポケットから一枚の紙を取り出し、そっと落とすと僅かに口元を綻ばせる。
（さて、探す物好きはいるもんかねぇ？）
　一本に編んだ三つ編みを跳ねやり、それに背を向け用とした彼は、外が何やら騒がしい事に気付く。ねこったーを覗いた彼は、何が起こっているのか把握し……くすり、と笑った。この場所は自分が去ろうとしている今も、トラブルを生んでいる、と。

（俺の敵は、本土の方にゴロゴロいそうだな）
　草薙龍八は訳あって寝子島を去る事にした。それ故に自分がココにいた痕跡を消し、ありとあらゆる『後始末』を終えた所だった。先ほど彼が階段下に置いたのは、今までに龍八が得た情報が保存されている複数のクラウドサーバーに関するメモだ。
　ふと、彼の脳裏によぎったのは自分を仇敵と呼ぶボーイッシュな……否、そうなる事を選んだ少女の事。彼女があのメモを見る時、自分は既にここを去っているだろう。龍八は最後に会えたら儲けだ、と僅かに目を細めた。そして、足を止める。
「なんだ、大田原いいなか。例のウツボカズラでも見に来たのか？」
「……巫山戯るな、草薙。この島を出るというのはどういう事じゃ？」
　振り向くと、そこにはさらりと長髪を揺らし、怒りを顕にした乙女がいた。走っていたのだろうか、ろっこん『ＴＲＡＮＳＭＵＴＥ』を発動させた大田原いいなは、肩で息をしながら龍八を睨みつけ、手にしたメモを握り締めた。

　同時刻。猫鳴館へと向かう一人の女性がいた。ウルフカットにした茶色い髪を風に揺らし、彼女はゆっくりと歩いていた。手に持っていた鞄がやや重いらしい。
「やはり鞄を分けるべきでしたか……」
　そう言いながら歩くのは、瓜山メイ。寝子高で書道担当の教師を務める女性だ。彼女は久しぶりに猫鳴館の後輩たちへとお菓子の差し入れに行こうとしていたのである。
　ホラーや怪談を苦手とするメイではあったが、古い猫鳴館はとても気に入っていた。見た目は怖いものの、中には愉快な仲間達が待っている。それに、寝子高在学中からそこへ何度も行っているが、一度も『そういうモノ』を見た事がない。
（あの場所に、そんなモノなんていませんよね。きっと、みんなの明るい声でより付けないのでしょう）
　メイは、猫鳴館での記憶を思い出しつつ、くすっ、と笑う。そこで今どえらい事（？）が起こっているとも知らずに。

　――猫鳴館裏庭・水道。
　逆巻天野は水道で顔を洗う真辺伸幸の後ろでねこったーを操作していた。
（これなら、わかる人にはわかる筈だよね）
　そして、書き込みを終えるとそのまま直接連絡したい相手へと連絡する。その反応に手応えを覚えながら、彼は１つ頷いた。
「ぬん、まだちょっと痒いねぇ～」
　顔を洗い終わったらしい伸幸にタオルを渡すと、彼は自分の書きこんだ内容を彼に見せるのだった。

　……という訳で「起」のサブタイトルに続く。

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