カメラは止めない！　パンツは脱がすな！｜リアクション

カメラは止めない！　パンツは脱がすな！

　いよいよ本番である。
　まずは佐和崎紗月と初瀬川理緒が手を繋いでデート中のシーンからスタート。
　ここから完全にノーカットで撮影されるのだ。
　同性カップルという事で、遠慮なくカメラの前でいちゃつく佐和崎と初瀬川である。

「理緒ちゃん……幸せだね？」

「そうだね、このまま幸せな時間が続くといいね？」

　互いの指を絡め合わせ、いわゆる恋人繋ぎで、道行く往来に見せ付けるかのように互いの距離を縮めてゆく２人。
「ねぇ、キス、しちゃおっか？」
「えぇっ？」
　初瀬川の提案（アドリブ）に、佐和崎の心臓は突き上げられるように躍動する。
「み、みんな、見てるよ？　理緒ちゃん……！？」
「構うもんか、今、ここは２人の世界だよ、紗月？」
「理緒ちゃん……」
　２人は立ち止まり、向かい合って熱い抱擁、そのままスゴイ顔が近い状況に！
　だが、突如、２人の前にある喫茶店の窓ガラスが砕け散り、大量のゾンビたちが出現！
　通行人を次々と襲い掛かり、特に女性はスカートからパンツをおろされてから噛まれるという凄惨な光景が発生する。
「な、なに、あれ……？」
　ア゛ア゛ア゛、ウ゛ウ゛ウ゛と背を丸め唸りながら襲い掛かってくる変態ゾンビの一軍の後方、騎馬戦のように四人の男たちに担がれるはゾンビの群れを率いて人間を襲うゾンビの女王、大江戸マンモスである！
「フフ、はっはっはっはっは！！」
　大江戸は四人のゾンビの上で仁王立ちして高笑い。
　その下半身はスカートこそ穿いているものの、もちろんノーパン！
　風のひと吹きで大事なところが見えてしまいそうだ。
　というか、担がれているので、初瀬川と佐和崎の位置からは丸見えである。キワドイ！！
（え、ええ！？　あれ、ほんとに大丈夫なの！？）
　初瀬川は思わず、カメラに映らない位置にいる監督に、横目で確認を取った。
　映画の趣旨には一応納得していたつもりだったが実際にノーパン仁王立ち女子を目の前にするとそのパンチ力に戸惑いを隠しきれない。
　と、監督は白い歯を光らせてサムズアップ。
「編集作業で『謎の光帯』とか『謎の湯気』で隠すから大丈夫！」的ないい笑顔だ！
（了解！　ならこっちもノリノリで行かせてもらうわ）
　恋人の佐和崎はゾンビメイクしたエキストラに涙目状態。無理もないか、と思う。
　彼女の肩を抱き、初瀬川は演技を続行する。
「あなたは一体何なの！？」
「フハハ！　我はゾンビの女王！　テメェらも我がゾンビ軍団の仲間になっちまいやがれ！」
　大江戸、見栄を切ってみせる。
（流石の私もノーパンスカートで恥ずかしくないと言えば嘘になる。しかし女王として堂々構えて見せましょう！　意外にこの開放感は悪くねえです）
　大江戸はスースーする感じが快感になってきたのを感じた。

「さあガンガンパンツを剥ぎ取りますよ！　お前らも全員ノーパンになりやがれ！」

　号令に勢いづいた変態ゾンビたちは初瀬川と佐和崎に襲い掛かる。
「紗月、逃げ……」
　初瀬川は佐和崎の手を引いた。しかし佐和崎は動かない。
　撮影だと判っている。いるがそれでも、あまりの恐怖に身体が強張ってしまったのだ。
　初瀬川は恋人の唇の青いのに気をとられ、立ち止まった。
　その躊躇に、ゾンビたちは遠慮なく踏み込んで群がり、彼女たちの華奢な身体を飲み込んでいく。
　ふたりの指先が、離れるのを、佐和崎は感じた。
　かと思うと強く突き飛ばされる！
「理緒ちゃん！」
「紗月、逃げて！」
　強気に微笑む初瀬川。
　変態ゾンビの群れの中で白い腕や太腿がしばらくもがいたり蹴ったりしていたが、やがて。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛！！」
　ゾンビたちの勝利の雄たけび。
　高々と天に掲げられたゾンビの手にはピンクのレースのパンティ。
「理緒っ、理緒っ、理緒ーーーー！！」
　恋人の名を泣叫び、今からでも助け出そうとゾンビの群れに駆けだそうとする。
　その無謀な行為を食い止めたのは、ほかの生存者から伸びた手の力強さであった。