さぁ此処が私の五稜郭
　　守り切ってみせるさ黒レース
　　　阿鼻叫喚のデスゲーム
　　　　でもただじゃ脱がない破らせないパンツ
　　　　　ただ1枚守る鉄壁まるでパンツァー
　　　　　　かます鉄拳ハードパンチャー！

　得意のヒップホップのリズムに乗せて吉住は金棒を振り回す。
　子夜も舞うように模造刀を振るい、ときに容赦なく目潰しを喰らわせる。
　矢萩は零葉を守りながら愛用の竹刀で応戦。
　居合わせた武闘派と集まっての大立ち回りに、吉住は、フ、と指で唇を擦る。
「ここまで集まれば落ちる気がしないわね、パンツは死守させてもらうわよ！」

　あまたの変態紳士ゾンビが地に沈む。
　しかしゾンビ女王・大江戸は尻尾を巻いて逃げ出したりする腰抜けではなかった。
　やるからにはガチと腹を括っている。
　武闘派女子の反撃に容易く屈するほど甘くはない！
　攻撃力の高い吉住と子夜は、それぞれに大勢相手に派手に立ち回って戦っている。
　だからこそ、大江戸の狙いは、矢萩と零葉！
「そおれっ！！」
　掛け声、投網ならぬ大量のパンツを結び合わせて作った「パンツネット」で矢萩と零葉を捕獲する！
　身動きの取れなくなったふたりに、一斉に飛びかかるゾンビたち。
「ひゃっ！？　さ、触らない、でぇ……！」
　零葉は、スカートを捲られ、ゾンビ役の人とカメラに恥ずかしい所を見られ撮られてしまう事を想像し、頬を紅潮させて小鳥のように震えている。恥じらいや恐怖はもちろんあるが、目覚めつつある露出性癖のせいで内心、何処か期待していたりする……二律背反からくる表情が、男たちをそそり立たせる！
「うおおお！　たまらん！」
　零葉のスカートが捲られた。
「あっ、しまっ……！？」
　シュレディンガーの猫はノーパンだった！
「お、おおっ！！！」
　どよめく変態達！
「あ、あぁっ！！？」
　何物にも遮られることのないピッカピカぷりっぷりの零葉をカメラに収めたという世界線が確定した。

　そしてもうひとり、矢萩は。

「くっ！　殺せ！！」
「パンツを脱がしたらな」
　ぐふふ、とえげつない笑みを浮かべ、スカートを捲ったゾンビたちは手を止め硬直した。
「なんだ、と……」
「くまさん、だと……！」
　19歳の毅然とした黒髪女子のヒップを包み込む可愛らしいくまさんぱんつに、あそこも硬直だ。
　くまさんぱんつは争奪戦となり、複数の手によってはぎ取られた。
「……やっぱりいーやー！　くまさんパンツ返してー！」
　パンツだけではない。
　失意のうちに身包みはがされ、気づけばゼンラーになってしまっている！
「このままゾンビ役をやれっていうの？　羞恥プレイ？」
　こうしていったんフレームの外に運ばれた零葉と矢萩、スタッフの手で手早くゾンビメイクを施され、死んだ目でヤケクソ気味にパンツ求めるゾンビと化した。
　そうして、ほんの数分前まで共闘関係にあった子夜と吉住に襲い掛かっていったのである！
「矢萩さん！　ゼンラーですよ！　葉っぱ葉っぱ！」
　ボクシングのセコンドが選手の状態が危険な場合にリング内にタオルを投げるがごとく、矢萩に三枚の葉っぱを投げる吉住。矢萩、あーうーと唸りながらも胸とYゾーンを隠すように葉っぱを装着！
　これでマッパの危険は回避された。どうやってくっついてるのかとか聞かないでくれ！
「敵に塩を送るとは……」
　矢萩は吉住に感謝した。
　しかし、それはそれ、これはこれ。
「そのパンツ、いただく」
　行け、とばかりに手を振り下ろせば、吉住に襲い掛かるゾンビたち。
　伸ばされる手によって、ジャパニーズハカマが引き裂かれる！
「ええい、脱がされさえしなければ……！」
　袴から破けて覗くパンツとか最高だろ？
　とか言ってたよなあの監督！
　恨みながら、羞恥に顔を真っ赤にしながら目一杯に足掻く。
　その拍子に身体が傾いだ。
（躓いた！？　多勢に落ちぬ城など無いように、多勢に落ちぬパンツもないということか……ならせめて）
　一抹の望みをかけて跳躍するもゾンビの群れへモッシュダイブ！
　見せ場は作った！　あとはもう、成す術もなく。
「くっ……いっそ殺しなさいよ！」
　受け止められた手の群れに揉まれ、吉住のパンツも陥落した。

　一方、子夜は零葉と対峙している。
「零葉……【命令】はまだ生きている、そうだな」
　――ぱんつを脱がされず、無事にこの映画を乗り切って下さい。
　それが子夜が零葉から受けた命令。
「アァ……ウゥー」
　零葉の呻き声を了承と受け取った子夜は、あたりを見回し、矢萩のクマさんパンツをクンカクンカしていた変態ゾンビの手から奪い取った！

「……知っているかい？」
　その声色はあくまでクール。
「ぱんつの基礎となる攻撃方法はその名の通り10（8+2）」

　被せ
　右叩き落し
　右叩き
　右叩き上げ
　穿かせ
　左叩き上げ
　左叩き
　左叩き落し
　締め上げ
　投げつける

「それを哀坂の神速でほぼ同時に……いいや、とにかくやろう」
　やろう、と言ったときには、やり終えていた。
　自らのパンツに頬をしばかれた矢萩は、恍惚とした笑みを浮かべたまま、どう、と倒れる。
　藍の着物の前が裂け、子夜の胸のふたつのふくらみがはらり露わになる。
　矢萩の、辛うじての反撃。
　命令通りパンツは死守したが、その豊満な胸のガードはがら空きだったのだ。
「ふむ……？」
　子夜は無表情のまま二つのふくらみを両の手で押さえる。
　矢萩は倒した。が、ゾンビは死なぬ。また起き上がってくるだろう。
　女王大江戸も無事だしゾンビたちは数を増やしている。
「どうしたものか……」
　
　そのとき、一台のジープがゾンビの群れと子夜の間に突っ込んできた！
「乗って！」
　後部座席のドアを開けて叫んだのは羽生 碧南。
　運転席には河島 澪。助手席には旅鴉 月詠が乗っている。
「生存者はもう、私たちだけのようだ」
「この街はもうだめだ。この車で逃げる。無下にパンツを奪われたくなければ、乗りたまえ」
　子夜にとって、命令は絶対だった。
　ぱんつを脱がされず、無事にこの映画を乗りきる。そのために。
　後部座席、羽生の隣に乗り込む。
　運転が得意な河島は、ハンドルを握るとアクセルを踏み込む！
　そのままゾンビを蹴散らしながら、街の出口へと向かう。
　カメラは追わない。ジープが小さくなっていくのを見送っている。
　終局が近づいている。
　ここできっと、クレジットが入るだろう。

　生存者は４名。羽生碧南、河島澪、旅鴉月詠、哀坂子夜であった――と。