富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【富士山登ろう！（３）】

　山登りで怖いことのひとつは、高山病です。頭痛に吐き気、めまいに手足のむくみ、動悸に食欲不振などなどなど……それはもうつらい症状のオンパレードで、時には重症化して死に至る危険性さえあるのです。
　無理せず着実に、自分のペースで登ることが肝要です。そのために、今回の日程は初日に山頂まで上り詰めてしまう強行軍ではなく、八合目での一泊を挟んでのゆったりペースとなっているのでした。
（うん。でも、思ったより頑張れるかも？）
　高山病の恐怖を押してでも見たい！　と思わせるのが、富士山頂から眺めるご来光。そのためにこそ、小山内海も頑張っております。
　絵を描くことが趣味の海は、このところあちこちにスケッチへ出かけることも多くありました。中にはちょっぴりたどりつくのが大変なスポットもあり、頑張って歩いたり登ったりしているうち、いくらか体力もついてきたという自信もありました。
「やあ、やはり九夜山登山とは違いますなー」
　などとのんびり言ったのは、お隣を歩く薄野五月。海とは互いを気づかいつつ、こちらもゆっくりな足取りで坂を上ります。
　ふたり、ふと顔を見合わせて、にっこり。
「けっこう大変ですけれど……でも、こうしてみんなで山に登るのって、いいですね。なんだかワクワクしてきます。ふっふ♪」
　五月が軽やかに言うと、海もこくこくとうなずきました。
　きっと、周りのみんなも同じ気持ちなのでしょう。そろって歩を進める仲間たちの顔だって、樹々の向こうから届く日の光を浴びて、きらきらと輝いています。
　あっ！　と、先を行く誰かが声を上げました。五月もひょいと頭を上げて前方を眺めてみますと、
「おおー。そろそろ六合目が近いみたいですよー？」
　五月はいつもの歓喜の舞をくるくると……踊るには少々荷物が重いもので、代わりに再び満面の笑みを浮かべてみせました。
　そんな顔を見ているだけで、海もなんだか、よーしがんばろう！　ってな気持ちになってくるのです。
（山頂で見るご来光も、素敵だろうなぁ）
　きっとその時も、かたわらには仲間たちの姿があることでしょう。

　富士登山は二回目、万全の装備で臨む羽生碧南。準備も心構えも、カンペキ！
「経験者がいると心強いね。よろしく頼むよ、羽生くん」
「は、はい！　先輩！」
　もはやなにも憂いナシ……であったはずなのに。鷹取洋二先輩と顔を合わせた途端、これほどに胸が弾んでしまうのは、なぜなのでしょう。
　またたく間に動悸は激しくなり、頬は火照ってきて、なんだかめまいもするかもしれません。もしかして、これが高山病？
　いえいえ。碧南にはもう、分かっているのです。自分の気持ちが、想いが、いったいどこへ向いているのか。誰を向いているのか。
「えっと……あの。鷹取先輩が富士山に登るって、なんだか意外ですね」
「そうかもね。これでもいろいろなところへ、写生に出かけることだってあるんだよ」
「そうなんですか。じゃ、じゃあ今度、いっしょについていっても……」
「ん？　なんて？」
「な、なんでも！　あ、ほら、六合目に着きましたよ！」
　得意の乙女ゲーなら、碧南はベテランもベテラン、恋愛マスターにだってなれるというのに、この体たらく。どきどきして、じんじんして、言いたいことも言えなくて……そわそわして。
（挙動不審だって思われてないかな……）
　恋のベテランどころか、ルーキーもいいところ。嫌われちゃったりしないかな、なんてちょっぴり怯えてさえいるのです。
「おおっ、これはすごいね！　すごい景色だ。ほら見てごらん、羽生くん」
　なんて当のお相手は、碧南の気持ちを知ってか知らずか、どこ吹く風のマイペースですけれど。
「うわぁ……」
　ともかく、およそ一時間程度をかけ、六合目に到達！　青空の下に続く山々の稜線を眺めたら、碧南の緊張もどこかへ吹き飛んでしまったのでした。

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