富士山登ろう！　夏の林間学校！｜リアクション

富士山登ろう！　夏の林間学校！

【富士山登ろう！（２）】

「三人そろって、ご来光を拝もうぜい☆」
「おーっ！！」
　ムードメーカーな志波武道が元気な声を上げますと、桐野正也がこれまた元気に腕を突き上げます。
　登り始めてしばし、まだまだ足取りは好調です。
「……お、おーっ」
　と、いうふたりの後ろをどーにかこーにかついていくのは、高梨煉。額には早くもだらだらりと汗が流れ落ちております。
　運動部員で体力には自信がある武道と正也に対して、煉はインドア派。得意なのはお料理とかでして、身体を動かすのはちょっぴりニガテです。
「いや……まいったな。自分の、体力のなさが……ここまでとは」
　ぜいぜい、はあはあ。早くも遅れがちな煉は、ふたりへ申し訳なさそうな顔を向けました。煉に歩調を合わせることで、明らかに遅れが出ているのです。
　けれどもちろん、そこは仲良し三人組！
「気にシナーイ！　きりのん、ふたりでれんちゃんをサポートしていこうＺＥ☆」
「オッケー！　おっそうだ、俺と武道で煉を挟めば、ペース保てるんじゃねーか？」
「いいね、そうしよう！」
　なんて、武道も正也も遅れを気にするそぶりなんて、ひとつもありません。それどころか、このがっつりバッチリなサポート体制ときたら、実に盤石なのです。
「……悪い、ありがとな」
「気にすんなって！」
　ぱしりと正也に背を叩かれると、煉の歩みも、若干ながら軽やかになったような気がしてきます。
　ふたりだって、辛くないわけではないでしょう。いくら運動部でバリバリ鍛えているからといって、ここは富士山。日本一の山を登っているのですから。
　それでも彼らは文句も言わず、弱音も吐かず、煉に付き合ってくれています。
「おし。頑張って登るか……！」
「おお、その意気だぜ！」
「きつい時は止まるから、言ってＮＥ～。っと、お疲れさまでーっす！」
　すれ違う人には、元気にご挨拶！　そうすることで、自分の内側からも活力が湧いてくるような、そんな気がするのです。
　三人組は適度な休憩も挟みつつ、着実に足を進めます。

　森篠琳子が富士山を登るのは、これが初めてではありません。見上げた雄大な景色には、いまだ記憶に新しい思い出を想起させられます。
（あの時は……まだ）
　元気な父の姿を思い出します。二年前、家族で挑んだ富士登山。
（ああ。あそこで妹が、疲れてぐずって。もう少し登ったあそこで、今度は私が疲れちゃって……）
　前回のルートも同じ、吉田口からのスタート。否応なく思い出してしまいます。
　汗濡れた父の微笑み。子どもたちを励ますあの言葉。
　そのわずか一か月後に、父は突然この世を去りました。急性心不全であったということです。
　そんな過去を抱えて、二度目の富士山へ、琳子は挑んでいるのです。自然と、その足は重たくなりました。
「大丈夫？　辛そうだけど……」
「えっ？」
　思いのほか、顔に出てしまっていたのかもしれません。振り返ると、それは同じ三年生の音海なぎさでした。
　保健委員のなぎさは、常に周りを気づかって、積極的に声をかけています。
「辛くなってきたら、無理せず休んでね。自分のペースで大丈夫だよ」
「あ、ええ……大丈夫。そういうのじゃ、ないから」
「そう？」
　なぎさはきょとん、怪訝そうな顔。
　けれどすぐににっこりと笑って、
「うつむいて登るより、景色を楽しみながら登るのはどう？　ほら」
　思い出は思い出のまま。けれど、なぎさの言葉が耳にするり、入り込んだ瞬間。
「……あ……」
　琳子は空の青さに、ようやく気付きました。

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