BOOK BAR「百一」｜リアクション

BOOK BAR「百一」

　路地裏にひっそりと佇む、BOOK BAR「百一」。今日も小さな店内には、静かな時間が流れていた。
　志波甲斐斗はふと見つけたバーに足を運んだ。こんなところに店があったなんて、と思いながら扉をくぐる。すると、ほんのりと古びた紙の匂いがした。
「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」
　マスターそう言われ、ぐるりと店内を見回す。カウンター席に少しのテーブル席。一人で来た自分がテーブルを占拠しては申し訳ないだろうと、カウンター席の隅へ腰を下ろした。壁に設置されている本棚に最も近い席でもある。
「どうぞ、お好きな本をお手にとってご覧ください」
「はい、ありがとうございます」
　そう声を掛けられて志波は席を立つと、本棚をしげしげと眺める。和書から洋書まで、様々な種類の本が揃っているようだった。背表紙を眺めているだけでも楽しい。
（おや、これは……古美術の本ですね？）
　目についた背表紙にそっと指をかけ、引き抜く。古美術とその解説が載っている本のようだった。それを手にとり、何かもう一冊、と探していると一冊の文庫が目に止まった。タイトルは「白猫館の殺人」。それを手にして、カウンター席へと戻る。
　革製のカバーがかけられたメニューを開くと、酒の名前を少々のおつまみが記載されていた。
「ウイスキーの水割りと、生ハム、チーズの盛り合わせをお願いします」
「かしこまりました」
　マスターがそう頷いたのを見て、志波は本へと視線を落とす。分厚い表紙をめくると、真っ先に目に入ったのはどこか凛とした雰囲気をたたえた陶磁器の写真だった。その姿に引き込まれ、志波はじっと本を眺める。
「どうぞ」
　本を眺めているうちに、ウイスキーの水割りとおつまみがカウンター越しに出されていた。軽く会釈をしてそれを受け取ってから、志波は水割りを一口飲んだ。焼けるような喉の熱さと、ウイスキーの風味が口いっぱいに広がる。ふう、と息を吐いて生ハムをつまむ。ほんのりとした塩気がウイスキーによく合う。冷たいグラスを置くと、志波は指先でページをめくった。

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