暑い時の遊び方｜リアクション

暑い時の遊び方

　8月と言えば学生達には正に夢の時間。楽園の時。そう、夏休みの真っただ中である。
　だが、高校を卒業して就職した三折部朝衣にとってはそれらは過去のものだ。

　今日は平日なので、本来であれば出勤をしている時間なのだが本日は代休日となっている。
　折角の平日の休みとあっては、サーファーガールとしてはやはりサーフィンに出かけるのが一番だろうと考えた朝衣は朝から寝子島海岸へと向かっていた。

「平日なのに随分と人が多いわね。まぁ、この暑さじゃ仕方がないかな？　でも、波の機嫌は悪くなさそうね」

　そう。この日の気温はまるで神様が地球を火にかけているのではないかと思う程の暑さであった。
　平日な事が幸いして海岸が人で溢れるという事にはなっていないが、これがもし土日であったら大変な事になっていたかもしれない。

　海岸近くにあるクラブハウスへと向かった朝衣はサーフィンをする時にいつも着ている大人っぽい少し際どい水着と出るところは出てはいるものの引き締まった身体にぴったりと吸い付くようなウェットスーツに着替えて、入念にストレッチを行う。
　サーフィンをする為の準備は朝衣からすればもう幾度となくしてきた作業であり、手慣れたものだ。だからこそ、手を抜かないようにしなければならない部分ではあるのだが。

　ストレッチが完了したら、待ちきれないと言うかのように相棒であるボードを抱えて海へと駆け出す。
　先程ちらっと見た今日の波はサーファーとして波乗りをするのが楽しみなものであった為、それも仕方ないのかもしれない。

　大きな波がきたら嬉々としてこれに乗って、何度もターンを繰り返し、海に落ちてはまた何度も波に挑んで行く。
　それを幾度も幾度も繰り返し、それでも尚まだまだと言うかのように目を輝かせて波へと向かう朝衣。
　それは午前中が過ぎて、お腹が空腹を訴えるまで続くのであった。

　午後になったから、一旦休憩の為にクラブハウスへと戻って来た朝衣。
　そんな朝衣が遭遇したのは高校時代の友人であるよっしーと言う愛称で呼ばれていた女性であった。

「あら、よっしーじゃない」
「みおりん！　うっわ、偶然！」

　キャアキャアと賑やかなガールズトークを交わす二人。
　そんな声を聴きつけて、二人に近づく人物がいた。

「三折部さん？」
「え？　あ、住沢さん？」
「あぁ、やっぱり。聞いた事のある声がしたからもしかしてと思ったけど、まさか本人だったとは」

　朝衣に声をかけたのは住沢遥人と言う朝衣よりも三歳年上の男性だ。
　以前、サマーバレンタインの際に知り合った人物であった。

「まさかこんなところで三折部さんに会うとは思わなかったな。もしかして、普段から良くサーフィンはしてる？」
「サーフィンは昔からの趣味なのよ。今日は休みで、天気も良いみたいだったからね」
「へぇ。実は俺もサーフィンが趣味でね。友人と良く寝子島外の海に行ったりしてるんだ」
「そう。寝子島の外の波に……」

　朝衣は遥人と共に波乗りを楽しんだ後、浜辺に二人並んでゆったりとしながら話をしていた。
　因みによっしーは何かを察したのか「お邪魔虫は退散～」とだけ言って、遥人が来た直後に去って行っていたりする。

「もし良ければ、また一緒に波乗りしない？」
「そうね。ええ、またご一緒しましょうか」

　時間にすればそう長いというわけではない。
　だが、一緒に波乗りして、こうして言葉を交わして。互いに確かに惹かれあうものがある。そう感じた二人は、静かに約束を交わすのであった。