暑い時の遊び方｜リアクション

暑い時の遊び方

「暑い、暑いですわ……。こういう日は室内に限りますわ……」

　すっかり暑さに参ったと言うようにぐったりとした様子で寝子島シーサイドタウン駅前を歩いているのはアイオ・キャンドライト。
　あまりの暑さにアイオは寝子島は熱帯という気候だったのだと勘違いしてすらいた。

「……あら？　カラオケボックス『シャンテ』？」

　ぐったりとしたアイオがふと目にしたのはカラオケボックス『シャンテ』の看板だ。
　このカラオケボックスには寝子高生が良く行くらしく、その存在はアイオも耳にした事があった。

「学生といえばカラオケ、二次会といえばカラオケ、ストレス発散にカラオケ、だとか？」

　このカラオケボックスなる店について、アイオは様々な方面から聞いた事があった。
　歌うための個室がたくさんある施設で、中では食べ物や飲み物を注文する事も出来る。店によっては食べ物が美味しい事で有名な店舗もあったりするとか。
　そういう話を聞いてはいたのだが、未だに利用した事はなかったりする。

「こんな暑さではもう外にいるのも限界ですわ、ちょっと行ってみましょう」

　これを良い機会だと判断したのか、それとも単純にこれ以上この暑さの中を歩きたくなかっただけか。
　どちらかははっきりしないが、アイオはカラオケボックスの中へと入る事に決めたようだ。

「あー涼しいですわー」

　用意された部屋へと入ってみればひんやりとした空気がアイオを迎え入れる。
　外の暑さに晒されたアイオの身体にはそれがとても心地良いものであった。

　システムがイマイチ解らないアイオはとりあえず、一時間だけ利用するという事にしたのだが、これならば十分休息できるだろうと安堵していた。
　聞いていた通りに食べ物や飲み物も注文が出来るようなので、早速オレンジジュースを注文するアイオ。

「これがマイクで、これが……確か歌う曲を選ぶ機械、でしたかしら？　それにしても他の部屋にも利用者はいたみたいですけど、殆ど声が聞こえてきませんのね。音響機器が揃った部屋で、しかも防音なんて、すごいですわ！」

　アイオが住んでいる猫鳴館では、大声で歌えば怒られる為に歌う為の環境が整えたれたカラオケボックスの部屋に彼女は感動をする。
　もっとも猫鳴館でなくとも、大体のアパートやマンションでは大声で歌えば怒られるので、猫鳴館が特別というわけではない。

「星幽塔でもこんな風にスイッチ一つで曲が呼び出せたらいいのにーですわ」

　タッチペンを使いながら電子目次本で曲を検索しながらアイオはそんな風に呟く。
　一度慣れてさえしまえばとても便利な物であるので、その感想は解らないでもないものだ。

「最近のアイドルの曲でも歌いましょうか。レパートリーは増やしておいた方が配信の時も有利になりますわ」

　趣味である喜矢武(きゃん) あいおとしての動画配信の為に、丁度良いとばかりに歌える曲を増やす為の練習を始めるアイオ。
　例え趣味ではあろうと、いや、だからこそクオリティアップに余念がないようである。
　そして、時折食べ物や飲み物の追加注文をしながらノリノリで歌っていると部屋に備え付けられた電話のコールが鳴り響いた。

「もおーなんですの？　……え、残り10分！？」

　そう。ノリノリで歌っていた故にアイオは気付かなかったが、何時の間にやらもう一時間が経とうとしていたのだ。
　本来の予定ならこの一時間で出て行く筈であったのだが。

「延長してください！　あと5時間はいますので！」

　どうやらアイオがカラオケボックスから退出するのはまだまだ先の事になりそうである。

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