たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！｜リアクション

たどりつけ、魅惑の山頂グルメ！

「新しいうどん屋ができたアルか」
　きらりと畑中華菜子は目を輝かせる。
「そうらしいんだよ、九夜山の頂上だって」
　瞬城真魚は軽く肩をすくめて見せた。
「敵情視察アルか」
「違うって」
「え、違うアルか？」
「でも興味を惹かれますね」
　と同意するのは蕎麦屋の娘である薄野五月だ。
「登山のあとなら、きっとおいしく感じられるんでしょうね」
　敵情視察にせよ、遊びにいうにせよ、新しい麺屋には興味が尽きない畑中だ。
「よーし！　じゃあみんなで頂上まで行ってみるアルよ！」
　と、元気に拳を突き出した。

　当日は快晴だった。
「わーい、みんなでハイキングアル」
　自然と足取りも軽くなる。
　今日はお弁当を持ってこなかった。頂上までお腹を空かせながら歩いていくプランだ。
「そういえば、イノシシが出るって噂になってたアルな」
「あぁ、そういえば……」
　瞬城はちらりと背後を振り返る。
「でもそんなけもの道を行くってわけじゃないし、イノシシもきっと賢いから人間にむやみに襲い掛かったりは……？」
　薄野が小首を傾げる。
「それに、えさになるような食べ物も持ってませんしね」
「襲ってもメリットがないかー」
「なら安心アルか……？」
　少しだけ心配がよぎるが、畑中は首を振る。
「歌でも歌いながら登れば、きっと大丈夫アル」
　軽くスキップして二人の前に出て、振り向きながら歩いていく。
「はやく～♪　美味しいー♪　うどんがー食べたいーアル♪」
「何その歌ー」
「うどん食べたいの唄ですね、おなかすいてきちゃいます」
　呑気な歌声が山に響く。
　途中で鳥の唄声が重なって、軽やかなハーモニーを奏でた。
「やっぱり登山は楽しいアルね」
　この先に、魅惑のうどんが待っていると思えば、足取りは軽くなるばかりだった。

「ふぅ……」
　とはいうものの、頂上にたどり着くころには幾らかの疲弊があった。
「結構疲れるアルね」
「そうですね、なかなか普段頂上までは来ないですし……」
　薄野が汗をぬぐう。
「あ、見えたよ」
　と瞬城が前方を指さした。元気を取り戻して走り出す。
　入店すると、三人で座れるテーブルへと案内された。
「注文、どうしようか」
　三人仲良くメニューを開く。
「あ、はい！　私、釜たまうどんにするアル！　ちくわ天も食べたいアルナー！」
「よく食べるね」
「お腹ペコペコアル！」
　注文を待つ間、店の香りを深く吸い込んだ。
　美味しいにおいに、おなかがぐるぐる鳴る。
「やっぱり麺のお店は好きアルなー。美味しい香りでいっぱいアル」
「そうですね」
　こくりと薄野が頷く。
「丹精込めて出汁作ってるのがわかるよね。スープって、麺と同じぐらいいっぱいの味を決めるから」
　瞬城も店のにおいを嗅いで満足げだ。
　やがて注文していた一杯が届く。

「いただきます！」
　畑中は元気に手を合わせた。
　箸を構えて、一気にすする。
「こ、これが本場のうどん……！」
　しっかりとしたコシのある麺。きゅっと締まった舌ざわり。
　しゃきしゃきのネギと薫り高い鰹節、新鮮な卵のとろみがたまらない。
「んんんんん、美味しいアル……！」
　箸が止まらない。
「私はここのうどん好きアルよ。島に新しい麺のお店が増えて嬉しいアル」
　にっこりと、自然と笑顔になってしまう。気が付けばつるりとどんぶりが空になっていた。
「久しぶりの山登りも楽しかったアルね」
「ほんと、そうですね……」
　薄野がメガネを曇らせながらにこりと笑顔を返した。
「また三人で来ようネ！」
　異論は、なかった。

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