NEKOJIMA of the DEAD　終末エンジョイ部｜リアクション

NEKOJIMA of the DEAD　終末エンジョイ部

　うみねこの声は遠く、大人たちのかけ声は近く。
　広い駐車場でセラミック製の刀を振る伊藤美緒の額に、汗がながれた。
　玉の汗が頬をつたい、顎より落ちる。
「――９８、９９、１００！　はい、やめ！」
　背筋を伸ばし、刀を納める美緒。
　振り返ると、同じように刀を納めた姿勢で立つ大人たちがいた。
　比較的男性が多めだが、年齢はばらばら。４０代を過ぎた大人もいれば、まだ高校生くらいの男子もいた。
　彼らの手には木刀や竹刀、刀身が鉄パイプになった改造刀などが握られている。
　美緒のように研ぎがなされた刀剣を持っている者は、そうそういないだろう。
「この練習を各自指定したセットごとやるのよ。安全な場所でね。間違ってもいきなり重い剣を振ろうとしないこと。型が伴わなきゃ打撃は効果を出さないわ。ゾンビ映画じゃないんだから」
　一通り説明をしながら、足下に置いたスポーツタオルで顔の汗をぬぐっていく。
「それじゃあ、解散。『剣道教室』はまた来月に開くから、生きてたらまた会いましょ！」

　Ｚニャイルスが世界を滅ぼして以降、それでも人類はどっこい生きていた。
　彼らは世界人口がダイエット番組の体重よろしく激減したことをむしろポジティブに受け取って、有り余る物資を分配、活用し、数年にわたって生き続けていた。
　人が死ねば悲しいが、悲しくてもお腹はすく。
　隣人がヴァーと言って襲いかかった日はきっとトラウマになったろうが、それでも彼らは隣家から毛布や缶詰をあつめ自宅を補強し、立派に生きた。生きるほかないなら、楽しく健康的に生きてやろうと、そう決めたのだ。
　美緒とて例外ではない。
「刀も随分鈍ってるわね。研いでおかなくちゃ」
　道場に戻って回転研ぎ機と紙やすりの部屋へ行くと、美緒は刀の手入れをしはじめた。
　空気式の銃器がそれなりに沢山作られているとはいえ、数は少ないし弾も無限にはない。
　それゆえ、この世界で生きていくには個人が武力を有する必要があった。
　そのための剣であり、そのための剣術。
　美緒たちはそうした技術を広く伝達することで対価を得、時にはその武力を物資調達時のボディーガードとして活用することでも対価を獲得していた。
　が、しかし。
「ゾンビの怖さは別、よね」
　美緒は一通りのメンテナンスを終え、電気ケトルに水を入れ、カップラーメンのビニールをはがす。
　ＤＶＤをノートパソコンにいれ、よじよじと離れてからそっと棒をつかって再生キーを押した。
『――ヴァー！！』
「キャーーーーーー！！」
　美緒の本土デビューは、まだまだ先になりそうである。

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