携帯戦記カプセルギア　練習しよう、カプギアアスレチック！｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　練習しよう、カプギアアスレチック！

　館内放送。アスレチックの順番が回ってきたことが告げられ、的子、由枝らがルームにスタンバイする。
　それぞれギアをスタッフに渡した後、希望者にはヘッドマウントディスプレイが貸与された。
　カウントダウンが始まる。
　静かな興奮が、あたりにみなぎった。

（ＡＲＥＡ：ＦＯＲＥＳＴ）。
　表示がにじんで、明るくなった視界の先に広大な高原と、陽光を受けてキラキラ光る建造物が見える。
　巨大雲梯、ホリゾンタルラダーの名にふさわしい威容。
　一番手は的子。
　スタートコーナーに現れた的子のギア、ネオム。
　その異様な姿に、ガラス越しにざわめきが起こる。
　
　開始の号砲が鳴った。
　瞬間、ネオムは撓めた全身を発条のようにはじき出し、そのまま雲梯に飛びつく。
　口腔に獲物のマシンガンを咥え、両腕をフリーにする。

　――行くよ、ネオム！

　眼にも止まらぬ速さで、的子はコマンドを打ち込む。
　ネオムはそのままずるりと滑り落ち、両手でバーをつかみ、ぶらりと垂れ下がる。
　そのまま振り子のように躯を揺らす。
（･･････）
　一同、声もでない。
　ネオムの足先に、雲梯のバーが触れる。
　そのままがっしりと「足の手」がバーをつかむ。
　ネオムは力強く重心を移動させ、さらに猿臂を伸ばして「足の手」でバーをつかむ。
　常に重心を移動させ、全身を発条のように伸縮させ、バーをいくつも跳ばしながら進む。
　空中を滑るかのような動き。
　ネオムの蛇腹状の躯、間断ない重心の移動がそれを可能にするのだ。
「んへへー、良い感じ！」
　天真爛漫に笑う的子。その手元の動きを見て、周囲は驚愕。
（マニュアル？）
　細かな間接の動きはＡＩに任せても、統御と動きの操作、次のシークエンスをクリエイトする能力は、コンピュータには任が大きすぎる。
　ネオムのすべてを知り尽くした的子だけが、それを可能にするのだ。
　
　ゴール手前で、ネオムは一度大きく躯をそらす。
　そのままくるりと回転し、ゴールに着地。
　あまりに完璧なそこまでの動きに比べてそれは、まるで愛嬌のあるモンキーダンスのように見えて、あたりから笑いが漏れる。
　――New　Record！
　それまでの記録を大きく塗り替えるタイムに、会場が大きく沸く。
　そのゴールの瞬間が、カメラに写される。
（合間に、記念撮影したいと思ってたんだ！）
　スタッフに乞われてホリゾントの前に立った的子、合成の技術によって、まるでネオムに抱っこされたような、現実と夢の混ざり合ったような、不思議な写真が撮影された。
「かっこいいー！　ほらネオム！　ね！」
　出来た写真をパタパタと振って、自動操縦のネオムにアピール。
　必死で平均台をクリアしながら、それでも的子の声に応えようとするギアの姿に、あたりから暖かい笑いが起こる。
　もう、だれもネオムの見た目の不気味さを誹るものはいない。
　その躯は柔軟で、魅力にあふれ、的子の手によって最高の輝きを放つのだ。

（･･････ネオムは、かっこいいのはもちろんなんだけど、腕の手、足の手、尾、尾の先端まで動かせるし、首や胴部、間接だって自由自在――。
　武装はシンプル、あんまり派手さはないけれど、応用がいっぱい出来るんだ。
　考えて動かせば動かすだけ楽しいのが、ネオム――なんだよなぁ）

「とは言ってもあの技、誰もが使いこなせる訳ではない･･････。
　まさに、見果てぬ先まで続くギアロード･･････」
「スタッフさん、腕を改造したい」
「ん。あと私、スタッフじゃない。通りすがりの、カプギアおねーさんだ」

　懸命に平均台を走りきろうとするネオムに的子がそっと声をかける。
「私、あなたが相棒で嬉しいよ」