夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～｜リアクション

夜、三夜湖の畔にて～１０００年に一度開く扉～

●やんちゃ子翼獣、捕獲（或いは誘惑）大作戦！（１）

　子猫睦を存分にもふもふしたあと、恵御納夏朝は翼獣御夜と一緒に湖の周りをお散歩。
　宴会の様子を軽くスケッチをしたり、感じたことのメモを取ったり。
　或いは、見たもの聞いたことを心に刻んだり。そしてその後、
　――撮影は難しいですが、ちょっと湖を離れれば、電話やメールは使えるかと！
　との睦の言葉に従って、夏朝は御夜を連れ、山道へと少し下った。
　そうして、スマートフォンを手に、考える。
（一閃さん、メール送っても大丈夫かな……）
　悩む夏朝の脇腹を、御夜が頭で軽く押した。
　きっと大丈夫だよ、と促すように。
「御夜ちゃん……うん、ありがとう！」

　―― 一閃さん、お仕事は無事に終わりそうかな？　スケッチの写真を送るね。

　暫し、返事を待つ。
　じきに、夏朝のスマートフォンが、ピロリン♪　と鳴った。

　―― 仕事はまだ終わりそうにない。写真、有り難う。今度、話を聞かせてもらえたら嬉しい。

　どうだった？　とばかりに、御夜がくくると首を傾ける。
「一閃さん、来られないみたい。でも、スケッチの写真、喜んでくれたよ」
　夏朝が御夜にそう報告した、その時。
　背後の茂みが、がさがさがさっと音を立てた。
「！」
　ハッとして振り返る。そこには――、
「……子供の翼獣さん？」
　わかりやすく、「しまった！」という顔をする子翼獣。
　どうやら宴会を抜け出してきたようだと見て取って、夏朝は自分と御夜に、ぺたりとねこシールを貼った。
　息を合わせて、とん、と地面を蹴れば、軽くなった１人と１頭の身体がふわりと浮く。
　わああすごい！　と煌めく、やんちゃ子翼獣の瞳。
「ほら、楽しいよ。君も、湖に戻って一緒に遊ぼう？」
「みぃ！」
　子翼獣、確保完了！
　大事にならないでよかった、とほっと胸を撫で下ろしていたところに、
「おーい！　外行くよりこっちの方がいいぞー」
　と、声が聞こえた。
「こっちには美味しい由貴奈さんのクッキーがあるぞー」
　声を追いかけた夏朝が見つけたのは、卯木衛と壬生由貴奈の姿。
　翼獣カイと翼獣ミケ、それに、今しがた捕まえたらしい子翼獣達も一緒だ。
「わ、こら、暴れるなって！　くすぐってえ！」
「ふふ。うーちゃん、すっかり気に入られちゃったねぇ」
　衛の腕の中で、きゃっきゃと騒ぐ子翼獣達。
　集まってきたちび達にクッキーを食べさせてやりながら、由貴奈はくすくすと笑った。
「ミケ、また前みたいに背中に乗せて、連れ帰るの手伝ってくれる？」
　ちっちゃい子たちも一緒だけど、と言えば、オウ！　とミケが鳴く。
　勿論だ、と言っているのだ。
　カイも、衛の腕の中の子翼獣達が大人しくなるのを、じぃと待っている。
　衛を背に乗せるのは自分であると、そういう心持ちでいるらしい。
　衛が、何とか子翼獣達を抱えてカイの大きな背に跨った、その時。
「……あ、かーさちゃんだ」
　ミケの背の上で、夜の山の暗がりの中、由貴奈が気付いた。
「うわ、そっちにもいたのか！　夏朝くん、ありがとな」
「ううん、偶然見つけただけだから。……それにしても……」
「ちっちゃい子たち、やる気満々だねぇ」
　様子を見に帰ろうか、との由貴奈の言葉に、衛も夏朝も、こくりと頷き、応じた。
「それで、必要なら、睦君達に手を貸さなくちゃだね」