赤い実鳴らそ、ほおずき市｜リアクション

赤い実鳴らそ、ほおずき市

「別に休憩時間なんてなくてもいいのになぁ」
　紗雪幽は懐手して、ぽっくりぽっくりと参道を歩いている。
　店主のじいさんが姿を見せて、「おう、一時間休憩だ」と店番をかわると言ったのだ。休まなくていいと幽は言ったものの、「無理はよくねぇ」と店主は譲らなかった。腰が悪いのは事実だが、一時間程度なら問題ないという。
　なのでお言葉に甘え、食事を済ませ幽は散策中というわけだ。
　実際、休憩して良かったかも知れない。
　疲れはとれたし、祭を客として見るのも楽しいではないか。
　まだ時間もあるし……と幽が立ち止まったのは、ハンドメイドの小物を売っている店だ。
「へえ～、ただほおずきとして売るだけじゃなくて簪（かんざし）とかにもしてるんすね～！」
　話しかけると、店主の弥逢遊琳はくすりと微笑んだ。
「うん、良かったら見ていってほしいな」
　どうしても気になって、幽は簪を手にしていた。近くで見るとますます見事だ。スティック部は木材で、丁寧にニスが塗られている。ガラスのように見えるほおずき細工は、売り子さんによればディップアートという樹脂製品らしい。ちゃんと中の実まで作られている。
「わっ！　これ綺麗っすね！　俺が女子だったら絶対買ってたな～」
「女子に限る必要はないと思うよ？」
　遊琳は少し、女性的な仕草で首を傾けた。
　遊琳の髪にも、ほおずきの簪が飾られている。
　まったく変ではない。それどころかむしろ、色っぽい。

「……あ、似合う」
「無理にとは言わないけど、人それぞれだから」
　まあ俺短髪だし、つけようがないけど、とつぶやいて、
「うん、でも部屋も華やかになるしー」
　幽は決めた。財布を取り出す。
「じゃ、すみませーんこれくださーい！」
　部屋に飾るとしよう。いつの日かまた誰か気になる人ができたら、プレゼントするというのもいいかもしれない。
　ひとつ買ったらまたひとつほしくなった。よし、休憩時間が終わるまであちこち露店で、ほおずきグッズを買いあさってみようか。
　幽の足取りはすうっと軽い。

◆　◆　◆

「わー、ユウくん、素敵なハンドメイドのお店があるよっ」
「どれどれ？」
　鬼河内萌と野菜原ユウが訪れたのは、弥逢遊琳の露店だった。
「色々な小物があるね☆　ユウくん、どれが良いかな？」
　萌の瞳は星でいっぱいだ。乙女心を刺激されてやまないらしい。
　すべて一点物ですと遊琳に言われ、ますます萌のハートはふるえた。
「どうしようっ、悩ましすぎる☆」
「そんな大げさな」
　苦笑するユウを見上げ萌は言うのである。
「ねえユウくん、選んでくれない？　ボクに似合うものを」
「責任重大だな、こりゃ」
　などと笑いながら、ユウは革紐ペンダントを購入したのである。財布を出そうとする萌の手をとめて言う。
「いいって、これくらい買ってやるよ」
「キャー☆　イケメーン☆」
「んなテキトーなおだて方しなくていーの」
　遊琳から受け取ったペンダントの包みを、ユウはぽんと萌に渡した。
「ありがと～」
　胸はドキドキ嬉しさで舞い上がりそう、けれども萌は、ほんのちょっとだけ物足りない。
　どうせなら、包みから開けて直接首にかけてプレゼントしてくれたら最高だったのになあ。
　ついでにキスまでしてくれたら、幸せすぎて死んじゃったかも――。
　いや待て、死んだらアカンやろ……なんて、自分に冷静なツッコミをする萌だったりもする。
　さて、最後は約束通り、カレーの屋台に立ち寄り、謎の『ほおずきカレー』を食べて帰るとしよう！