赤い実鳴らそ、ほおずき市｜リアクション

赤い実鳴らそ、ほおずき市

　壬生由貴奈と卯木衛は、同じ種類の屋台をのぞいている。
　ちりりと音の鳴る屋台、すなわち風鈴売りだ。
　風鈴売りが数件、軒を連ねているのである。
　思っていた以上に種類があった。どれもハンドメイドだそうだ。同じモチーフのものはない。つまりすべてがワン・アンド・オンリーの一点ものということ。
「海に金魚に……あ！　由貴奈さん、お菓子柄もありますよ！」
　衛が手にした風鈴は、傘の部分にキャンディーのイラストがちりばめられていた。
「あーでもクッキーじゃない飴だな～」
「お菓子……クッキーじゃないんだ、うーん残念だけど見送りだねぇ」
　そうやって風鈴を探す。探して迷う。迷って探しつづける。
　そんな過程だって楽しいのだから、これぞ夏祭りのマジックというやつだろうか。
　どれほどたくさんの風鈴を手に取っただろう。
　衛はもう、一生分くらい風鈴を見た気がする。
　そして運命的なくらい、突然にその風鈴にたどりついたのだった。
　これだ！　と声を上げたくなる。
　ちょっと夕日みたいな、橙色の風鈴だ。
　グラデーションというのか、上にいくにしたがって、少しくすんだ赤色にうつろいゆく。
　なんかこう……鬼灯って黄色と橙色の印象だったから珍しいのもあるけど……。
　つくづくと眺めて衛は思う。
　由貴奈さんっぽいっつーか、由貴奈さんに似合いそうな風鈴つーか、
　好きだな、って――。
　買って帰って部屋に飾りたい、最初に衛が望んだのはそれだった。
　なぜって風鈴が鳴るたびに、由貴奈さんを思い出せるだろうから。
　でも、
　それよりも、
　由貴奈さんを思って選んだ気持ちごと、あげたいな。
　だから衛は風鈴を購入するとすぐ、
「はいどうぞ！」
　両手で捧げ持つようにして由貴奈に手渡したのである。
「……ん？　その風鈴、うちにくれるの？」
　由貴奈は受け取って、左手でもちあげた風鈴を陽に透かす。
「ええ、見てください。俺なりの、由貴奈さんのイメージです！」
「うーちゃんが考えるうちのイメージ……」
　繰り返して由貴奈は風鈴を見つめる。
　ちょうどいい風が吹いた。
　鳴る。幸せな音が。
「うん、すごく綺麗。ありがとねぇ、うーちゃん」
　風鈴が鳴るたびに、うーちゃんのこと思い出すよぉ、と由貴奈がほほ笑むと、
「俺のこといっぱい思いだしてくださいね！」
　衛は首がもげるくらいうなずくのだ。
　ふと由貴奈の瞳は、屋台にならぶ風鈴のひとつにとまった。
「……あっ、これなんかまさにうーちゃんって感じの風鈴かも」
　手に取る。
　やはりほおずきをモチーフにした風鈴だ。
　普通のほおずきより少し、赤さが薄い。むしろピンクに近いといっていい。
「この色が、うーちゃんの髪色みたいだなーって……」
　口に出せば、もうこの風鈴しかありえないという気持ちになる。
　迷わず由貴奈はその風鈴を買った。
「お返しに、この風鈴を大好きなうーちゃんへプレゼントするよ。はい、どーぞぉ」
「ありがとうございます！　大事にします！」
「もらった風鈴、うちも大切にするよぉ」
　だって、他でもないうーちゃんからもらったんだから――心のなかで由貴奈は付け足した。
　まだまだ暑い季節はつづく。
　だけど衛の風鈴は、由貴奈の風鈴は、
　由貴奈に、衛に、涼を運んでくれることだろう。