赤い実鳴らそ、ほおずき市｜リアクション

赤い実鳴らそ、ほおずき市

　参道を歩く。
　歩くと、佐和崎紗月は視線を感じずにはいられない。
　紗月自身に向けられた視線ではない。彼女と手をつないで歩く初瀬川理緒に向けられた視線だ。
　ストレートにいえば、理緒は人目を惹くということだ。
　グラドルという職業で顔が知られているせいもあるだろう。
　しかし理緒には天性の資質、注目を浴びる魅力があるからに違いない。
　だけどその結果、どうしても人々の視線は、理緒とともにある紗月にも向かってくるのだ。
　人見知りの強い紗月には、視線は刺さってくるように感じられる。まるですべての視線が、鋭利なメスでできているみたいに。
　――あたしと一緒だと注目を浴びちゃうよね。こればかりは仕方ない。
　理緒にとっては視線なんて風のようなもので、いちいち意識していても仕方がないものだ。むしろ拍手として前向きにとらえたいくらいだ。
　でも、紗月にとっては厳しいだろう。それは理解できる。
　そのとき、
「グラドルの初瀬川理緒？」
　いささか不躾に、大学生くらいとおぼしき男子グループに声をかけられた。
　すると理緒はカラッと晴れた笑みを浮かべて、
「今日はお友達と浴衣デートだから邪魔しないでねー」
　と可愛らしく上手にあしらったのである。
　大学生グループにそれ以上つっこむ隙を与えない。
　それに反感も抱かせない。
　ひらりと手を振ると、グループもひらりと手を振り返した。これだけで終わりだ。
「すごいよね、理緒ちゃん。私、声かけられたとき緊張しちゃった」
　紗月の手に力が籠もっていた。
「そう？　あたしだってそれなりに緊張してたよ」
「まさか」
　返事のかわりに声を出して理緒は笑った。
　それなりに緊張していた、その言葉に嘘はない。
　さすがに恋人だとバレたらヤバい――と理緒はとっさに思ったのだから。
　笑って流そうとしたのだけど、紗月の手の力は緩まない。
　もしかして、『お友達』といったのが気に障った？
　と理緒は一瞬思ったが、そうではなさそうだ。
　結びあった指先から、速い脈が伝わってきたから。
　――ドキドキしてるんだ……紗月。本当にかわいいんだから。
　その通りだった。
　紗月は肩を強張らせたままったまま前を向いている。
　早まる鼓動、ひどく大きく響いて外に漏れだしそう。
「紗月、どうしたの？」
　理由は分かっているのだけど、理緒はあえて訊いてみる。
　途端、映画のカットが切り替わったかのように、はたと紗月の意識は現実に復した。
「え、なんでもないよ」
　慌てて頭を振る。
　けれど理緒は、あたふたと照れ隠しする紗月をますます愛おしく思うだけだ。
「ねえ」
　照れ隠しするように、いや、照れ隠しそのものとして紗月は屋台の軒先を指す。
　ほおずきの鉢植えが売られていた。風鈴のついたかご入りで。
「あれ見ていい？　鈴が付いてかわいいし」
　そのままふたりは風鈴付き鉢植えを二つ購入、互いの部屋に飾っておくことにしたのだった。

　ドリンクを片手に、肩を並べて帰路につく。
　手と手は結ばれたまま、肩と肩は、ふれ合ったまま。
　また来年、こうしてふたりで一緒に行きたいな、と紗月は思った。
　そう、きっと来年。ともに大学生となった姿で。
　紗月の視線を受けて理緒はうなずいた。
　やっぱりいいなあ、と思っている。
　あたしの紗月は何を着ても可愛い。間違いない。
　紗月は理緒より一足先に十八歳となった。でも大学入学は同時、そう願う。そのための努力もしている。
　それはそうと、とも理緒は思うのだ。
　浴衣、次に着るのは花火大会かな――。