もしものわたし｜リアクション

もしものわたし

「ジャーン！　どう？　この水着、似合うでしょ？」
　ド派手なネオンカラーのビキニを身に付けて、おふざけでセクシーなポーズなど決めてみせれば、
「あっはは！　アリサ、超決まってるじゃん！」
　なんて、同じく水着姿の友人達が、けらけらと笑う。
「でしょ？　しかも、ハイレグだからね」
　言って、真境名アリサはもう一度別のポーズを取った。
　友人達がまた笑う。つられて、アリサも笑う。
　頻りに響く波音も、アリサ達の賑やかさには敵わない。

　アリサは、進学のために沖縄から寝子島へやってきた、木天蓼大学法学部の４年生だ。
　就職活動の内定も無事に貰っていて、今は、学生生活最後の夏休みの真っ只中。
　来年からは、東京に本社がある大手食品メーカーで働くことになっている。
　つまり、アリサにとって、今こそが、寝子島で過ごす最後の夏だ。
　今日は、アリサと同じく就職が決まった友人達と一緒に、寝子ヶ浜海岸へ泳ぎに来ている。
「就職決まったら、残りの学生生活、卒論を書く以外はほぼやることがなくなっちゃったしね」
　イルカの形のビニールフロートに掴まってそうぼやけば、
「あれ？　アリサ、資格取るって言ってなかったっけ？」
　と、友人の１人が、寝そべられるタイプのフロートの上から、不思議そうに声を投げた。
「そう！　強いて言えば資格！　……って思ってたんだけど、」
「うんうん」
「先輩が、業務に必要な資格は、むしろ就職してからのほうが取りやすい、って」
「マジ？」
「みたい。業務経験があるほうが、試験に有利なんだって」
　上手く行かないもんだねぇ、と、友人が零す。
　アリサがそれに頷いたところで、
「ちょーっとそこー！　真面目な話しない！　海だよ、う・み！！」
　なんて、別の友人が声を張った。
（まあ確かに、色々考えてもしょうがないか）
　最後の夏休みだからか、皆、解放感に満ち満ちている。
　誰もが普段より大胆になっていて、一行は、はしゃぎにはしゃいだ。
　友人の中には、MewTuberをやっている子もいて、
「はーい！　じゃあ、水着美女たちのはっちゃけっぷりを、今から実況中継しちゃいまーす！」
　なんて、終いには、アリサ達のことを撮影し出す始末。
「え？　もしかして、本当に撮ってるの？」
　と、イルカのフロートでぷかぷかしながらアリサが瞳を瞬かせれば、
「はーい！　マジでーす！　ね、さっきのポーズ、もう一回！」
　という調子で、MewTuberの友人から明るい声がかかる。
「あ、私も見たい！」
「やっちゃえやっちゃえ！」
「って、やらないわよ！！」
　そのあとも、飛び入りで参加したビーチクイーンコンテストで優勝する、なんて予想外の出来事もあって、
「やったじゃん、アリサ！」
「まあ、なんていうか……これはこれで、いい思い出よね」
　なんて、金色のメダルを胸に、アリサはくすぐったいような気持ちで笑みを零した。

　とはいえ、日々、こんなふうに浮かれ騒いでいるわけではない。
　ボランティアで、子供会の九夜山キャンプの手伝いもしているし、家庭教師のバイトにも精を出している。
　そんな中で、アリサは時折、夢を見るのだ。
　夢の中の自分は、どうやら、水商売をしているらしい。
　そしてどうにも、そこへ辿り着くまでに、苦労を重ねてきたようなのだ。
　だけど最終的に、『夢の中の今』のアリサもそれなりに幸せそうに笑っているので、
（これはこれで、あたしらしいよね）
　と、アリサは夢から目覚める度に思い、小さく微笑んでいる。